短編

□傘
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「あれ、醤油がない。」


今日もいつもの様に
炊事場で夕餉の準備をしていた。

「醤油が切れたのか?
仕方ない買ってくるか。」

襷を外そうとする斎藤を
彼女は制して

「大丈夫よ一ちゃん。私行ってくるよ。まだ日が高いし大丈夫、大丈夫。」

「ではすまないが頼んだ。」

「うん、一ちゃんはあらかた準備終わったら休んでて。」

「。。。どうでもいいがそのはじめちゃんはなんとかならないのか?」

「かわいいから無理!」


と、たわいもない会話をした後
彼女は炊事場を後にした。

玄関を出ると
巡察から戻ってきた
藤堂が声をかけた


「あっれ〜っ名無しさんこれから出かけんのか?」

「おかえり平助。ちょっとお使い」

「雨降りそうだぞ。行くなら傘持ってけよ。ほら」


渡された傘を手にして
ありがとうと礼を述べると
彼女は屯所の門をくぐった。



***



「はいよ〜。姉ちゃんまいど。」

「あ、ついでに焼酎ない?」


ついでに酒を買い名無しさんは
今日は肌寒いし焼酎お湯割りだ〜
などと陽気に考えていた。


流石に水物二つは
女の手には重い。


「だけど左之達も美味しいお酒あると喜ぶよね。」


一人でブツブツと言いながら
懸命にもっていると
不意に手元が軽くなった。

びっくりして彼女が振り向くと
浅葱色の隊服をきた
原田が背後から名無しさんの
荷物をとっていた。


「おう、重そうじゃねぇか名無しさん。
お前一人で持ってくつもりか?」


眉を歪めながら原田が問う
名無しさんは笑って答えた。


「左之〜、良いところに。ちょっと重いな〜って思ってたとこよ。ついつい焼酎買っちゃってさぁ」

「ついついってあのな。一人で来たんだろ?持ち帰る重さも考えろよ?女なんだから。。」

「あ、雨だ。」


原田が言葉を最後まで言い切る前に
ポツポツと降り出した雨は
すぐにざぁっと本降りになった。


慌てて彼女は持っていた
傘を広げると
原田へとかたむける。


「お、準備いいな名無しさん」

「当然って言いたいとこだけど
平助に持ってけって持たされたのよ。」

「じゃ、このまま帰るか。」






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