短編

□満月
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明るい月が
部屋に差し込んでいる。


彼女を部屋に送り届けた
沖田はそのまま部屋に入り
すっと襖戸を後ろ手に閉めた。



「なに?なんで総司が私の部屋はいってんのよ?」

「僕がここにいちゃ悪い?何か不都合ある?」


月明かりを背にした沖田の
その表情は陰って見えない。

声色はいつもの悪戯なそれ。

沖田は彼女の肩をギュッと掴むと
彼女の躰はこわばった。


「僕がいつこんな事君に頼んだのか。。。聞かせてもらいたいんだけど?」


静かに紡がれた言の葉に
怒りの色が見え隠れする。

沖田の言っているのは
彼女が黙ってこことは
異なる世界に帰り
労咳の薬を持ってきたこと。
そしてそれを土方に相談をして
沖田の見ず知らずのうちに
彼女が姿を消していたこと。。。


「君は、全て知っていたんだね。
まぁ当然と言えば当然か。未来から来たんだからね。」

「。。。」

「でも、戻ってこれる
保証はなに一つなかったんだよね?
それとも帰って来れなくても。。。
あのまま黙って僕の前から消えてもいいって思っていたのかな?」

「ちがっ」


彼女は自分の言葉を言いかけると
黙ってとばかりに沖田の唇が
それを塞いだ。


「僕が土方さんからその事実を聞いて。。。どんな想いをしたと思う。。?」


沖田は言葉を紡ぎながら
何度も何度も角度を変えながら
名無しさんの唇を塞ぐ。

その腕はしっかりと
彼女の腰に当てられ
片方の手は彼女の頭を
捉えていた。


「僕は君を諦めようと思ってた。
この病の事もあるし。
いつか僕は君の前から姿を消す
人間だろうから。
でも。。。まさかこの僕が
置いて行かれるとはね。」

「んっふっ。。」

「その理由が僕の為だったなんて。。。
本当に僕は今日まで
気が狂いそうだったよ。」


かくん、と彼女の膝が落ちる。
腰の片腕でその小さな躰を支え
唇はそれでも彼女を追い詰める。


「今日は君を離せそうにないから
覚悟していて?」


そう紡ぐと
ゆっくりと畳の上に
その細く小さな躰を組み敷いた。




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