長編
□慟哭
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バタン
「痛っぁ」
気が付くとそこは
見覚えのあるビジネスホテルの一室だった。
床には散らばったパワーストーン。
長い夢を見ていた。
そんな感覚。
だけど彼女の右手首には
白い紐が結ばれていた。
「。。。夢じゃない!」
名無しさんは急いで知人の医者に
一本の電話をいれた。
薬を手に入れるために。
***
沖田は寝付けなかった。
縁側へ出ると眩いばかりの満月が
辺りを照らしていた。
酒でも飲もうと
部屋の片隅にあった瓶をとると
ゆるゆると一人で口にした。
ふと人の気配がある。
そこへ目をやると
見覚えのある羽織をもった
土方がそこにいた。
「なにやってるんですか土方さん。人の羽織を握りしめてどうしたんです?気持ち悪いんですけど。」
「。。。」
いつもなら言い返して来る
言の葉がない。
訝しげに顔を覗くと
月明かりに照らされた
その顔は青白く
羽織を握りしめた手は
力が入りすぎているのか
薄っすらと血管が浮き出て白くなっていた。
「早く返してくださいよ。それ、僕のでしょう?おかしいな。これ名無しさんにお願いして結い紐と一緒に洗ってくれることになってたんですけど。。。」
そこまで沖田は紡ぐと
背筋がぞくっとした。
沖田の感は鋭い。
だが、あたっていて欲しくはない。
間違っていて欲しいと願いつつ
一つの問いを土方に投げかけた。
「彼女はどこです?土方さん。」
否、答えはない。
沖田は縁側を走った。
彼女の部屋へと。
バンっ
勢いよく開かれた襖戸
そこには彼女はなく
冷たい空気だけが漂っていた。
沖田は土方の元へと急いだ。
今だその場所に佇んでいた彼に
怒気をはらんだ声をかけた。
「彼女は。。。名無しさんはどうしたんですか?土方さん。答えによって僕は貴方を斬るかもしれない。」
「騒ぐな。男だったら黙ってろ。」
その声色は低く
そして哀しみを含んでいた。
「あいつは。。。あいつはお前のために元の世界へ戻ったんだ。。。!」
。