キセキの世代、それは僕の全て

□ふたつめ
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ー氷帝ー

『…来て、しまった。』

キセキの世代に交換留学の話をしてから早くも当日となり、楓李は帝光の制服で氷帝学園を見上げていた。

周りの氷帝生は皆白い制服に青いチェックのスカートやズボンだというのに、楓李だけ水色のシャツに黒いネクタイ、黒のスカートというのはかなり目立ち、注目の的となっていた。

『はぁ…めんどくさい。キセキの皆に会いたい。なんでこんなとこに僕が来なくちゃいけないんだ…』

めんどくさそうにしつつも職員室へ向かう楓李。なんだかんだいって、そういうところは真面目なのだろう。

廊下を歩いている間、周りの人間たちは一人だけ黒と水色の制服である楓李を見てヒソヒソと小さな声で話し、楓李が近づけば自然と道を開き、廊下の隅へと固まっていた。本来、氷帝学園ではこのような状況には一部を除いてなり得ることはないのだが、楓李には帝光中で日常茶飯事になっていたためなにも疑問に思うことなく職員室へと歩を進めていた。

『…ここが、職員室。』

しばらく広い学園内を歩き、やっと楓李は職員室と書かれたプレートのある扉の前へと立っていた。

『…(帰りたい)失礼します。交換留学で帝光中学校から来ました、銀雪楓李です。私の入るクラスの担当の先生はいらっしゃるでしょうか?』

扉を開く前にはぁ、と一度ため息を吐き、帰りたいという気持ちを押し隠して楓李は笑顔を作り職員室の扉を開くと名を名乗り職員室の中を見回した。

「あぁ、お前が銀雪か?俺は新優吾(あらたゆうご)だ。今日から1ヶ月、お前の担任になる。よろしく?」

『…はい。(必要最低限だけ)よろしくお願いします。やっぱり、知り合いが1人もいないのは(全然全くこれっぽっちもないけど)緊張しますね…』

新「そうか…俺を頼ってくれていいんだぞ?気にしないで、どんどん頼ってくれよな」

『はい。ありがとうございます、先生』

楓李はそう言って自分より一歩先を歩いて教室までの道のりを説明する新を見た。彼はいい先生なのだとは思う。ただ、彼よりもいい先生を楓李は知っているし、その先生と彼を比べているわけでもない。ただ、見てしまったのだ。彼が楓李を見たときに、一瞬だけ値踏みをするような、そんな薄暗い光を宿した瞳をしたことを。

楓李は自身の容姿がかなり整っていることを知っている。そしてそんな容姿がどのように他人に思われているかも、十分に理解していた。だから、わかってしまったのだ。彼は自身に媚を売り、「銀雪楓李」というアクセサリーをあわよくば、手にしようとしていることが。

新「銀雪、ここが今日から1ヶ月お前が通う教室だ。3年A組、ここには生徒会長もいるから、何かわからないことがあればそいつに聞けばいいぞ。…じゃあ、呼んだら入ってきてくれ」

『…はい。わかりました』

ガラリとドアを開き中に入っていく新。教室の中に彼の姿が消え、ピシャリとドアが閉まると楓李は苦々しく歪めた表情を隠すことなく浮かべ、ため息を吐いた。

『はぁ…担任がアレじゃあ、クラスもたかが知れてるなぁ。…めんどくさい。』

幾分かたったころ、新の声が聞こえた。

新「銀雪、入って来てくれ」

その声を聞いた楓李は深呼吸を一つすると作られた微笑を浮かべてガラリとドアを開いた。
洗練された動作で優雅に堂々と教室に入っていく楓李にクラスの殆どが釘付けになった。

先生に促されるまま黒板に白いチョークで自分の名前を書き、教卓の横で生徒の真正面に立つと楓李はふわりと微笑を浮かべ、言葉を発した。

『皆さん、はじめまして。交換留学生として帝光中学校から来ました、銀雪楓李といいます。1ヶ月間という長いようで短い期間ですが、よろしくお願いします。』

綺麗に一礼して背景に花が咲きそうな笑顔を浮かべる楓李。それはそれは綺麗なその笑顔に、見たものは皆一様に見惚れた。


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