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□水面が繋ぐ
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水面を撫でる。
シャアと清廉な音を立てて波紋が広がっていく様子を眺め、それに合わせて揺れる月に近付く。
剣咬の虎に備え付けられているプールにはユキノしか居ない。昼間の賑やかさは一切無く、夜空だけがそこに佇んで優しい光を放っていた。
ガラス越しにも明るい満月はユキノの白い肌を一層白く見せて、プールの冷たさも相俟って死人のような雰囲気を醸し出している。
ユキノは昼間の、皆が楽しそうに過ごしているプールも嫌いではない。ただ独り占めしているような夜のプールの方が落ち着くだけだ。
背後から倒れて大きな飛沫を上げる。そのまま浮力に任せて波に揺蕩い、天井に手を伸ばした。
「ユキノ?」
突然響いた声に驚いて思いきり沈む。直ぐ様引き揚げてくれたのは声の主であるスティングだった。
「何やってんだこんな時間に、つかお前冷たっ!」
「スティング、様…」
肩を抱くスティングの熱がユキノへと移り、その場所がじんと痺れる感覚に陥る。それほどまでに冷えきっているユキノの身体にスティングは眉根を寄せた。
「何かあったのか」
「いいえ、私……」
言い差してからスティングが服のままプールに入っている事に気が付いた。
「スティング様早く服を乾かさないと!」
「ユキノ」
慌ててスティングの服を掴むが、正面から両肩を捕まれて真っ直ぐに見つめ返される。そう言えば先程の返事をしていなかったと思い出した。
「俺には言えないことか?」
そう言って顔を少しだけ歪ませるスティングにユキノは首を横に振った。どうしてそんな表情をするのかよく分からないが、スティングには似合わないと思う。
「私、帰る前に少しだけ泳いで行こうと思って…」
「もう日付越えてんだけど」
「えっ!?」
なんだ、気付いて無かったのかよ。噴き出して笑うスティングにほっと息を吐くと、横抱きにされた。
余りに自然な動きだったがゆえに2、3回瞬きをしてからやっと自分の格好を自覚する。
「っ、き…!」
口をついて出そうになった悲鳴はスティングに飲み込まれ、柔く唇を食まれた。
スティングが満足するまで繰り返される口付けに息も絶え絶えに応えていると、唇を離したスティングはユキノの顔色を伺った。
「ん、顔色は戻ったな」
「え?」
「いや、ちょっと赤すぎるか?」
「も、もう!スティング様っ!」
誰のせいだと思ってるんですか!!耳まで真っ赤に染めたユキノに声を上げて笑うと、痛がらない程度にきつく抱き締めて耳許で囁く。
「シャワールーム行こうぜ、ユキノは着替えなきゃなんねぇし、俺は服乾かさないとな?」
「…はい」
「で、着替えたら待ってろよユキノ。
家まで送るから」
そう言うとユキノは幸せそうに笑い、スティングは照れ臭そうに笑った。