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□酔いも悪いも
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 何時間も乗り物に乗らなくてはならない場所に来るとは思えないのだが、ローグはどのようにして連れて来たのか。
 青ざめた顔で目の前の座席に座っているスティングを見やってユキノはほんの少し首をかしげた。いつもならスティングの横に酔っている彼を気遣うレクターが居る筈なのに、その姿も見えない。



「スティング様、あの……」

「あ?」



 当人に決して悪気は無いのだが、体調が良くないからと返答を惜しむ様子は贔屓目に見たとしてもチンピラにしか映らない。ユキノも一瞬怯みはしたが、苦しげな呼吸を繰り返すスティングにもう一度声を掛けた。



「よろしければ私の膝をお使いください」

「…は?」

「目的地に着くまで寝てしまえば少しは楽かと……」



 控え目に両手を広げるユキノ。スティングは気分が悪い事を頭から追いやってユキノを凝視した。
 ユキノは普段通りの服装をしている。普段着という意味ではなくクエストに赴く際のコスチュームであるため、ふわりと広がるマントと肩紐も無いトップス、膝丈からよりも股下から数えた方が単位が少ないであろうスカート、そのスカートから晒されている白い肌と、僅かに食い込むニーハイソックス。

 この、男の天国みてぇなのを枕にしろってか。

 男として当然の葛藤がスティングの思考の端から主張する。それすらもなんだか気恥ずかしく感じられて、こっそりとユキノから視線を逸らした。



「スティング様?」



 声をかけても微動だにしないスティングに首を傾げるが、暫くすると得心がいったようにマントの留め金を外した。
 ユキノからしてみれば寝るときにマントが邪魔になるだろうという配慮だったのだが。



「(なんで脱ぐ!?)」

「さぁ、スティング様」



 2度目の催促に、これ以上拒否しているとユキノが気に病むだろうと、ありがたく膝を借りる事に決めた。魅力的な誘惑に負けたわけではない。負けてない。はず。
 意を決して大腿に頭を乗せると、適度に柔らかいものがスティングの頭を受け止めた。
 目を閉じれば柔らかい枕だと言い張る事も出来るだろうが、いかんせんユキノの匂いが自然と入ってくる。落ち着かずに瞼を開ければユキノがこちらを心配そうに伺っているのが見えた。しかし豊かな胸囲越しな為、嫌でもそこに意識が行く。個室車両で本当に良かったと思いながら目許を覆った。



「ゆっくりおやすみください、スティング様」



 ユキノはそう言うと、優しい手つきでスティングの髪を梳くように撫でた。
 ついでに、先程外していたマントをスティングの体に掛ける。



「(勘弁してくれ……)」



 寝られるわけねぇだろ!!




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