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□六花の微笑
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 剣咬の虎が生まれ変わってから、ユキノはよく笑うようになった。正確には剣咬の虎が生まれ変わったからじゃなくて妖精の尻尾のおかげなんだろうけど。

 ギルド内を歩いているとユキノが誰かしらと談笑しているのを時々見かける。大笑いしている訳じゃないくて、むしろ静かに微笑んでいるんだけどそれが何故か目に付く。

 何故か胸の辺りが温かくなる。
 ユキノの透明な声で名前を呼ばれると頬がむず痒くて、つい頭に手が伸びそうになる。

 以前のオレには全く無かった感情だ。悪くない。それどころか常に穏やかな気持ちでいられる。
 オルガもルーファスもローグも、前より余裕を持って仕事に行くようになった。(だからって油断してる訳でもないけどな)
 マスターとしての仕事に追われる日々になっちまったけど、これもまぁ必要な事なんだろう。
 ローグやユキノも手伝ってくれているし、レクターも気を遣ってくれる。フロッシュだって好きな筈のお菓子を分けてくれる。

 予感がある。
 このギルドは良いギルドになる。いや、する。



「スティング様」

「…ぅ、ユキノ……?」

「はい、お休みのところ申し訳ありません。評議会とマスターマカロフより手紙が来ておりましたので、デスクに置いておきました」

「悪いなユキノ」

「いえ」



 いつの間にか寝てたらしい、眠気でくっつきそうになる瞼を擦って起き上がると、案外近くに居たらしいユキノと視線がぶつかった。

 そういや、オレこいつの笑顔直接見たことないよな。


 いや直接見たことはあるけど、何というかオレの前で笑った事ないんじゃないか?


 思ったらその通りな気がして、どうしてもユキノの笑顔が見たくなった。



「スティング様、眠いのならベッドに……」

「ユキノ」

「は、…はい」



 オレが呼び掛けた一瞬、ユキノの瞳に怯えた光が走ったのが見えた。

 なんで、恐がってるんだ。
 その理由を考えるよりも先に口が動いていた。



「オレは、マスタージエンマとも以前のオレとも違う。ちゃんと仲間を大切にする、そんな人間になる。だからユキノ」

「…はい」



 怯えるな。恐がるな。
 そうやって感情まかせに叫びたくなるのを押さえ込む。オレが言うべきはそんな言葉じゃない。



「見守って欲しい、オレがそんな人間になれたかどうかを見ていてくれ」



 以前のオレが切り捨てたユキノ。お前が判断してくれ、オレが新生剣咬の虎のマスターに足り得るかを。



「はい、マスタースティング」



 わだかまりはきっと溶けた。蕩けるような微笑みを浮かべるユキノは、今まで見た笑顔の中で一番綺麗に思えたんだ。



 
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