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□酔いも悪いも
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「この依頼書…ですか?」
「あぁ、ユキノに是非向かってもらいたいクエストなんだ」
大魔闘演武が終了してから2ヶ月程経ったある日、剣咬の虎の書庫で資料の選別作業を行っていたユキノにローグは一枚の依頼書を見せた。
内容は重力魔法を使える魔導士に、無重力アスレチックの手伝いを3日間依頼したいという大手の遊園地からの物であった。元々仕事を行うはずだった魔導士が怪我をし、アスレチックの開始日に間に合わなくなったため代理を勤めて欲しいとの事であった。
「確かに、私のライブラでしたら適任ですね。
ですが私の魔力が保つかどうか……」
「大丈夫だ。流石に1日中ずっと魔法を使うわけじゃない」
ローグがフォローすると、安心したように息を吐いた。そんなユキノに対して心なしか悪戯っぽく微笑むと、内緒話でもするように顔を寄せる。
「実は、スティングも連れて行ってやって欲しいんだ」
「え?このくらいでしたら私だけでも……」
「マスターに就任してからずっと気を張っていたから、ユキノの仕事に着いてくって名目の…まぁ休暇のようなものだ」
なるほど、とユキノは思った。慣れない執務はストレスを産む。スティングならば討伐系のクエストでフラストレーションを発散させた方が効率は良さそうだが、身体も休めるとなるとそうはいかない。
「そういう事でしたらお任せ下さいローグ様」
「すまないユキノ、頼んだ。
スティングには俺から言っておこう」
「はい、かしこまりました」
ローグは快く引き受けたユキノに依頼書を渡すと、依頼の必要事項を書き写したメモを持って書庫から出ていった。
その背中を見送ってから依頼書に今一度目を向ける。
「あら?此処って確か剣咬の虎から列車で半日掛かる所では……?」
慌てて書庫の扉を見るが、とっくに閉まっている扉からは当然何の反応もなかった。