中編

□2.
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シリウスがその彼女を始めて見掛けたのはオリバンダーの店の前だった。
誰かを待っているのか少し離れたところで店の中の様子を窺うようにしながら立っていた。
彼女はシリウスよりも一回り小さくて背伸びをしたり、
ちょこちょこと障害物を避けるように左右に動いたりとする姿がとても印象的でよく覚えている。
よっぽど声を掛けようかとも思ったがその日はジェームズたちとの約束があったのですぐに通り過ぎた。
同じ日にまた通りかかった時にもう居なかったので、彼女の連れは無事杖が決まったのだろう。

二度目に見たのは本屋に行った時だった。最初は気が付かなかったが、
彼女はが高い場所にある本を取ろうと背伸びをしているところが記憶のオリバンダーの店で背伸びしているところと重なり彼女だと気付いた。
たまに飛び跳ねて取ろうとする仕種が少し小動物っぽい。
しかし爪の先が触れて僅かに揺れるもののそれが彼女の手に収まる様子はない。

「これか?」

暫くその様子を眺めていたが、店員を呼びに行く様子もない彼女に呆れてシリウスはその本を取ってやった。
そうなれば自然と彼女に近づくことになるわけで、彼女を本棚に押し付けるような体制を取りながら本をその手に収めた。
彼女からは仄かに砂糖菓子のような甘い香りがして、それを名残惜しく思いながら本を持つと一歩下がって彼女に差し出した。

「ありが‥‥とう」

まず本を見て、そしてシリウスの方を確認して彼女は少し顔を俯けた。
その仕草はやはり小動物のようでどこか庇護欲を掻き立てられる。

「これ、新しい教科書だよな。それならあっちで買えばいいのに」

礼の言葉から彼女の口から次いで出る言葉がなさそうなのを確認してシリウスは口を開いた。
彼女が取ろうとしていたこの本はこの間家に届いた教科書リストに有った本だった。
同じ学年ならば他の教科書と共にセットで置いてあるのでそちらで買えばいいのにと指差すと
彼女はどこか慌てた様子で「あっちは人が多いので‥‥」などと言った。
確かにあちらは人が多い。背の小さい彼女が無理にあそこに入っていけばもみくちゃにされてしまうのは想像に難くなかった。
納得して頷くとシリウスはもう一つの疑問を投げかけた。

「でも、見ない顔だな。同じ3年だろう? どこの寮だ?」

シリウスが初めて目に止めたのは何も見覚えがあるだとか、知り合いに似ているとか、そういうことではなかった。
寮が違えば同じ学年でもあまり顔を合わせないことも多いし、シリウスだって全員の顔と名前がわかるとは言えない。
よっぽど成績が良いだとか、目立つような相手なら別だが、他より頭一つ小さな彼女のことだ。
きっと学校で会っていたとしても気づかない。

「え?‥‥‥あ、私、人を待たせているので、失礼します」

彼女は目を丸くして寮を聞かれたことに驚き、顔を真っ青にして逃げるように会計に向かってしまった。

「待て!」

シリウスも慌てて彼女を引き留めようとしたが、遅く彼女はその小さな体を利用して人ごみの中へと消えてしまった。
寮を聞かれてどうしてそう逃げることがあるのか不思議で堪らずその日は暫く彼女のことを考えた。
そしてある結論に辿り着く、シリウスはホグワーツではそれなりに有名だ。きっと彼女も知っていることだろう。
だとすると、彼女はスリザリンの寮生で、敵対しているグリフィンドールのシリウスに対して尻込みしたのではないだろうか?
いや、そうに違いない。そうとしか考えられない。
知らなかったとはいえスリザリン生に手を貸してしまうだなんて、全く悪戯仕掛人にあるまじき失態だ。
休みが明けには必ず彼女に必ず悪戯をしてやろう。シリウスはそう心に決めた。

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