中編

□2.
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甲板に出ると良い陽気だった。風が程よく吹いていて絶好の釣り日和だ。

「なあ、ウソップ。釣竿は余ってるか?」

「釣竿? 今は誰も使ってないと思うけど、イチローが釣りなんて珍しいわね」

「ああ、前の島で買った肉が傷まない裡にタンパク源を確保しとかねェと」

実のところ食糧が足りなくなりそうでと困るというのが本音であるが、
今ある肉がそろそろ限界だということについては嘘ではなかった。
それを聞いてウソップは笑って「それじゃあ」と言った。

「私も手伝うわ」

「おう、ありがとな」

二人並んで糸を垂らしながら世間話をして二時間。生簀にまた一匹魚を放り込んだ。

「いけね、そろそろ昼飯だな。ウソップと話してるとついつい時間を忘れちまうな」

「本当だ、もうこんな時間。ごめんね気付かなくって」

「いや、付き合ってくれて助かったぜ。結構釣れたし、話も楽しかったしな」

おれが釣竿を片付け始め、ウソップも糸を戻そうとした瞬間思い切り糸が引いた。

「きゃあ!」

「ウソップ!?」

 ウソップはそのまま海に持って行かれそうになっておれは慌ててその竿を支えた。
竿は折れそうな程にしなり糸は海面の下で暴れた。

「でかいッ! ウソップいいか、引くぞ」

「ええ!」

「せーの!」

おれは深く腰を落としてウソップと共にその竿を起こした。
それに付いて来たのはサニー号より二回りほど大きな海王類だった。

「ぎゃあああああ!? 海王類ィィ!!?」

その海王類は海から引き摺られてくるとパカリと口を開けてこちらに向かって落下してきた。
冷静に考えれば殴るなり蹴るなりして倒せばよかったのだがその時のおれは頭が回らず
腰を抜かしてその場に崩れたウソップを庇うことしかできなかった。

「ウソップ!」

ウソップを胸の中に隠し背を向けると背に牙が刺さる感触がし熱が集まっていくのを感じた。
今日は厄日なのかもしれない。

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