長編

□3.
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新学期の授業も順調に進んだ。
夏休みの間に魔法の感覚をすっかり忘れてしまったとミリセントがぼやいていたけれど、
クリスマス休暇だってイースター休暇だってあったというのにそれはないだろうとキャロルは思ったが口には出さないでおくことにした。
コガネムシをボタンに変えるという変身術の授業だってみんなは動き回るコガネムシを躍起になって追い掛け回していたけれど何故そんなに頭が固いのか疑問に思う。
動き回るのなら動きを止めてしまえば良いということに何故気が付かないのだろう。

「イモビラス(止まれ)」

キャロルは動きを止めて大人しくなったコガネムシに改めて杖を振りボタンに変えた。
隣で見ていたオールドマンが成程といった表情で真似をするとそれが波のように伝わっていき、
最終的には全員というわけではないがほとんどの生徒がコガネムシをボタンに変えて――
一部の生徒は不完全な変身術しかできず足が生えていたり、穴がなくおはじきの様な状態だったりしたが――マクゴナガル教授は面食らった表情だった。

「流石ですわ。よく思いつきましたわね」

「まあ、実戦で使おうと思ったら魔法は一つじゃないだろう?」

手の中で翡翠色のボタンを転がして不備がないことを確認すると一度コガネムシに戻した。

「僕としてはそれよりもこの変身術がどうなっているのかの方が気になるのだけれど」

再び杖を振るい今度は装飾のついた銀のボタンに変えてみせた。

「どうなっているかって‥‥どういうことですの?」

「例えば、このコガネムシは越冬できないだろう? このままではクリスマスが来る頃には命が終わるわけだ。しかし、こうしてボタンに変えた状態で冬を迎えたらどうなるんだろう?」

「どうもこうも、ボタンのままなんじゃありませんの?」

不思議そうに首を傾げるオールドマンにキャロルは頷いて見せた。

「まあ、そうだろうね」

基本的に変身術は魔法を解くか魔法を掛けた者が死ぬかしない限りは効果が続くものだ。
このコガネムシもクリスマスを過ぎても誰も魔法を解かなければずっとボタンのままであろう。
しかし、コガネムシは命ある存在である。
これをボタンに変えてしまった時点で生命活動はストップしてしまうわけだ。
それでは生命活動を止めたままでコガネムシは一体いつまで生きられるのか。この辺りがキャロルの疑問である。

「(上手くいけばタイムスリープも可能かもしれない)」

また興味深い研究対象が出来たとキャロルはほくそ笑んだ。
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