長編
□2.
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授業一日目の朝、ぬくぬくとした布団の中でキャロルが寝返りを打つと突然何者かの手によって引きずり出された。
「いつまで寝てるつもりなの? 朝食に遅れるわ!」
ミリセント・ブルストロードだった。
「ううん‥‥誰か時間割貰っておいてくれないか」
「駄目よ。さあ、起きてちょうだい」
朝食は抜いて一時限目のギリギリまで寝ていたいと進言したものの即刻却下されてしまいキャロルは眉を寄せながらようやく身を起こして顔を上げた。
「だから程々にして寝た方が良いって言ったのに」
ミリセントは随分と呆れた様子で昨晩遅くまで本を読んでいたことを挙げると「二度寝しないでよね」と言い残してマーモットと共に談話室に下りていった。
部屋にはまだオールドマンが残っており難しい顔をしてブラシで栗色の髪を梳かしていた。
「おはよう、Missオールドマン」
「おはよう、大丈夫? 酷い顔だわ」
「ああ、顔を洗って来るよ」
寝不足の顔はオールドマンが言った通り酷くやつれた様になっていて我ながら呆れのため息が零れた。
簡単に薄くできた隈を隠すように化粧を施して、髪を簡単に結って後ろへ流した。
不潔に見えない程度に身嗜みを整えて、ローブを纏うとまだ髪と格闘しているオールドマンに向かって杖を振るった。
「これでいいかい?」
「ありがとう、ジェンキンス。私くせ毛だから全然纏まらなくって。今度その呪文教えてくださる?」
あちこちに跳ねていたオールドマンの髪をふんわりと内側へ向くようにしてやるとどうやらようやく彼女の納得いく髪型になったらしい。
ブラシを置いて慌ただしくローブを掴んだ。
「ああ、勿論。女の子は毎朝大変だな」
「ジェンキンスも女の子でしょうに。おしゃれをしてみたいと思わないんですの?」
オールドマンはキャロルの下の方で一括りにしただけの髪を見た。
「必要とあらばするが、進んではしないな」
キャロルの髪はどちらかといえば長い方だ。キャロル自身は見た目など然して問題にもしない、髪など邪魔にならなければいいのだ。
それこそ短くても、長くてもどちらでも構わない。しかし貴族であるキャロルの両親は品格や見栄えを重要視する。
そのため髪は長くしているのだが、彼らの目が無ければ髪型は邪魔にならない程度にしか整えることはない。
「必要とあらばというと?」
「接待とか交渉とか、あとはパーティーでの顔合わせとか」
「打算的ですのね」
「褒め言葉として受け取っておく」
キャロルたちが談話室まで下りればミリセントたちが待っていて「遅い」と零した。それにオールドマンとキャロルは苦笑を零した。