長編

□2.
1ページ/4ページ



長い夏休みが終わり、新学期が始まった。
表情が少し硬く身綺麗な新入生たちが大広間に入ってくるのを見守りながらそっとキャロルは周りを見た。
在校生は新入生を温かく迎えている者、興味無さ気にしかし拍手だけ気だるげに送っている者、心ここに非ずといった風に教師席に目を向けている者と様々だ。
因みにキャロルは二番目に分類される。

それにしても、一年前、もっと言えば数か月前まではキャロル自身が一年生であったというのに新入生が入ってくると途端に自分が老け込んだような錯覚に陥る物らしい。
組分けの儀式を緊張した面持ちで受けるその初々しさに微笑ましいものだと眺めた。
隣にいるドラコは品定めというか貴族の知り合いを探しているらしく、彼は誰々の息子だの彼女は夜会で見かけたことがあるだのと言っているがキャロルは適当に相槌を打って聞き流した。

「あれはグリーングラスの妹だ。きっとスリザリンに入るぞ」

「Missグリーングラスの? へえ、妹がいたんだな」

暫くして新入生が全員寮に振り分けられると新しく就任した闇の魔術に対する防衛術の教師が挨拶を始めた頃、
マルフォイの向こう側に座っているクラッブの腹の虫が聞こえたような気がする。
一方女生徒たちの大半は、(実のところ新入生の組分けの時からだが)件の新任教師――ロックハート氏に熱い視線を送っていた。

「あいつの何処が良いんだかな」

ドラコがそうキャロルに囁いて来たので軽く頷き返しておいた。
派手な水色のローブを翻し、演説もとい就任の挨拶を声高々にする彼を見てキャロルはうんざりとした溜息を吐き出した。

「長くなりそうだな。そのうちクラッブの涎で水溜りができるぞ」

ドラコにそう囁き返すと、すぐさまクラッブの無防備に開いた口を閉じさせた。
女生徒に対して男生徒の眼差しは冷たくその温度差は歴然である。それもそのはず、彼、ロックハート氏は英雄ではないのだから。

これはキャロルに前世の記憶があるから知っていることとは別の問題で、本に書かれていることが全て本当であったとしても彼は英雄にはなりえないのだ。
雪男、トロール、バンパイアなど様々な人に対して害を及ぼすと言われる者ども(ここでは害獣とする)を退治したと発表している彼だが、
実のところこれらの害獣被害はそこまで深刻ではない。
棲処が近い地域ではそこそこ頻繁に目撃はされているようではあるし時には死者も出るが、これらはよっぽど自然災害に近いもので積極的に退治するものではないのだ。
つまり彼はマグル界で例えるのならば、クマが出没したので退治しましたといった程度の功績なのである。
被害があれば殺処分もやむ得ないが、だからといって猟師が英雄となるかと言われればそうでもないだろう。
少なくともキャロルの認識では英雄だとは思わない。

「狡い人だ」

ロックハート氏は頭が良い。皆を騙す程度には頭のまわる男だ。
それを魔法学に注げたらどんなに素晴らしかっただろうとキャロルは少し残念に思った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ