長編
□1.
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締め切ったカーテンにすでに燃え尽きてしまった蝋燭で部屋の中は真っ暗だった。
時計は小刻みに音を奏でながら午前10時ごろを指している。
「キャロル‥‥キャロル、起きなさい」
部屋の主であるキャロルはぐっすりと眠っており、誰かが揺り起こそうとする振動に渋々目を開いた。
「兄様‥‥?」
そこには不機嫌そうに眉を寄せたレジナルドとその足元には心配そうな顔のロニーもいた。
キャロルは研究途中で眠ってしまったらしく、机に伏せったままだった身体を引き起こした。
可笑しな体勢で眠ってしまった所為か身体の節々が少し痛む。
「キャロル、今日が何日だと思っているんだ」
レジナルドに非難がましくそう問われキャロルは首を傾げた。
ホグワーツから帰って来たばかりで特に予定も入っていなかったはずだが何かあっただろうか。
起きたばかりであまり上手く働かない頭で考えるもののすぐに答えは出てこない。
そんな様子のキャロルにレジナルドは深く溜息を吐いて仕方ないと口を開いた。
「今日でお前が帰って来てから三日になる。が、帰ってから一度も食事を摂ってないらしいな?」
「申し訳ございません。キャロルお嬢様このロニーめが至らぬばかりに‥‥」
「え」
キャロルは二人の言葉に驚いて目を見開いた。確かに研究に夢中で徹夜をしたのは覚えている。
しかし、いつの間に3日も経ったのだろう。というのがキャロルの正直なところの思いだった。
「お嬢様のお口に合うよう精進致しますから、どうかお食事を摂ってくださいまし」
大きな瞳に涙を毀れんばかりに浮かべたロニーが、これまた涙ぐんだ鼻声でぐずぐずと話し始めるのにキャロルはパチリと瞬いた。
キャロルが食事を摂っていなかったのはただ単に忘れていたからなのだが、ロニーはキャロルが食事を気に入らなくて食べないんだと勘違いしたらしい。
「ロニー、ごめん。違うんだ。君が用意してくれる食事に不満があるわけじゃない。いつも美味しいよ。
ただ、僕が時間を忘れていただけなんだ。心配してくれてありがとう」
ロニーの頭を撫でながらそう言うとパッと嬉しそうな顔に変わる。それからキャロルはレジナルドに向かい合って頭を下げた。
「あの、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
すると、レジナルドはもう一つ溜息を吐いた。
「私も集中すると周りが見えなくなるタイプだから人のことは言えないが。食事を忘れるというのははっきり言って異常だ。
お前が小食なのは知っているが、ちゃんと一日に3回食堂に顔は出しなさい」
レジナルドは強い口調でそう言いつけたので、キャロルは素直に、はいと答えた。
「それから兄妹なのだから、このくらいの迷惑は何でもない。ロニー、キャロルに胃に優しいものを作ってやってくれ」
「はい、喜んで!」
キャロルは久しく見た兄の顔を少し眺めながら、大分覚めてきた頭で着替えをしなくてはと思い至った。