長編

□3.
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キャロルが思うに魔法薬学は科学的でかつ芸術的な学問だ。
前世の記憶でスネイプ教授が言っていた次の台詞に影響されていないと言えば嘘になる。

「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」

だが、確かにこの世界で魔法薬を学んでみてあれほどまでに的確な表現は他にないと思ったものだ。
魔法薬は魔法の中でも特に再現性が高く、一個人の能力や素質に影響されにくい。
もっと言うならば知識のほとんどないものであってもその手順と材料さえ揃えば魔法薬を作ることが可能なのだ。
煮えた鍋をかき混ぜる魔女の描写がマグルで有名なのも何か関係があるのかもしれない。
それに魔法薬は効力の弱い物でも失敗すると危険な薬品が多いがその繊細さや緻密性は他の魔法にはない美しさがある。

「このクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。
そこで、それでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。
フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち上る湯気、人の血管をはいめぐる液体の繊細な力、心を惑わせ、間隔を狂わせる魔力…
諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。
我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法である――ただし、
我輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが」

嫌味を混ぜつつもその表現の文学性が優れていることにまた感心するばかりだ。
教授には詩の才能もあるんじゃないだろうか。
そんなことを思いながらノートを開いて予習したものになんとなく目を向けた。

「ポッター!」

それまでの調子とは打って変わって鋭い口調で教授はハリーを指した。

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」

キャロルはそれを聞いた瞬間一気に自分に溜まっていた熱が下がっていくのを感じて眉根を寄せた。
せっかくの魔法薬学の時間だというのにどうして濁すような事をするのか知れない。
それに答えることが出来ないハリーを見て前の席のマルフォイとクラッブ、ゴイルが
肩を震わせて笑っているのもキャロルを不愉快にさせた。
3人だって答えることなどできないだろうに。

「ポッター、もう一つ聞こう。ベゾアール石を見つけてこいと言われたら、どこを探すね?」

ただ一人ハーマイオニーだけが手を挙げているがそれを無視して教授は質問を連ねた。
その紳士的ではない問いかけに思うところはあるもののどう口を挟んでよいものか考えあぐねて静かに一人溜息を吐いた。
まあ、それに対するハリーの対応もあまり褒められたものではなかったからお互い様かもしれない。
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