読処

□手紙
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 ひよりー、会いたい。何時帰ってくるんだよー。ひより、ひより、ひよりーー


 四回ほど書かれている己の名前にひよりは苦笑を漏らした。十行ぐらい書くスペースはあるのに、書かれているのはたったの二行。特に意味のない内容だが、早く帰ってこいと今にも紙の裏から手招きをしてきそうな思念を感じる内容だった

「もう四日だけなのに」
 緋よりは困ったように呟くが、だが嬉しげでもあった。

「そうだよねー。でも夜トちゃんはひよりんが好きだから仕方ないんだよねー。ほら早く書いてくると良いよ」
「はい。そうします。小春さん、今日もすいませんでした」
「うんうん。良いよ良いよ、気にしないで」




 ひよりの高校はいま修学旅行の真っ最中だった。四泊五日の修学旅行は楽しいものであったが一つだけひよりには問題があった。それはひよりの恋人である夜トだ。彼は毎日のひよりに会いたがる。一日会えないのでさえ嫌がるほど。ひよりがこの話をした時は大騒ぎとなった。ある程度は覚悟していたひよりではあったが、予想を超えた大騒動で驚愕してしまったほどだ。それでも流石に彼を連れて行くわけにはいかないし、ひよりが半妖の姿になって会いに行くには距離が遠い。何より修学旅行、夜更かしをすることだって場合によってはある。そんな中でいくら人には見えぬからと言っても抜け出すのはきつい。みんなが起きて話している中、一人爆睡しているわけにもいかぬのだ。さらに夜ト自身が来るのは色々と問題が起こりそうで、本人達よりも周りから盛大な却下をもらった。
 だが、それではひよりに会えぬと一晩丸々大騒動した結果、では、代わりに手紙のやりとりをすることになったのだ。何故、手紙かというと、電話だと声を聞いて堪えきれなくなった夜トが行く可能性があり、メールだと物寂しいと夜トが主張したからだ。手紙を届ける係は小春が喜々として受け持ってくれた。


 夜トから送られた手紙(と言っても書かれている内容は特にない)を見ながらひよりは夜トへの手紙を書いた。今日あったことなどを書きながら、あの大騒動を思い出している。
 普通ならあそこまでされたら鬱陶しいと思うものなのかもしれないが、ひよりは嬉しいと感じてしまった。呆れた思いもあるが、そんなに自分と一緒にいたいと思って貰えるのが嬉しかったのだ。ひよりもできれば夜トと一緒にいたかった。だが、そこは学生のみ。仕方ない。
 それにこうして手紙のやりとりをするのをひよりは楽しいと思っていた。
 こういう機会はあまりないことや、たった二行でもメールで送られてくるよりも。こうして紙に書かれ礼琉方が相手の気持ちが伝わってくるのだ。それに。

 送られてきた手紙にちょっとだけ鼻を近づける。僅かながら相手の匂いがしてくるのがとても嬉しかった。
 夜トの字をなぞる。そこに籠もっている気持ちが幸せな気分にさせる。

 だけど、僅かばかり寂しさもやはりあった。

(後、一日。早く会いたいですよ。夜ト)


 手紙を書く回数はあと二回。
 楽しいけれど、はやく終われと願う。やはり直接会いたいものだった。
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