Novels 短編

□この高鳴りをなんと呼ぶ
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「「ええええええ!?」」



「……びっくりしたァ…なんだよお前ら」


キッチンから雪崩れるようにでてきたクルーたちが顔を覗かす。


その声に耳に指を立てて呆れ顔でみるサンジが、起きていたのかと言葉をこぼした。


きっと皆心配して眠れなかったのだろう。


覗き見をしてたのか、はたまた聞き耳たてていたのかはともかく、あたしはさっきのサンジの言葉を必死に頭で繰り返していた。



「……誕生日って…あたし?」


「あァ、丁度いま0時ぴったりだろう。受け取ってくれるかい?」


びっくりして見上げるあたしにやっと目を合わせてくれたサンジはその瞳をゆっくりと優しいものに変えた。


「ちぃ、あんた誕生日だったの?」


驚いて声のでない他の皆のために代弁したナミは、口に手を添えてよびかけてきた。


「…そういえば…」


自分でもびっくりしている。


まさか誕生日を忘れるなんて…



「だいぶ前に聞いたことがあったから覚えてたんだ、ちぃちゃんのことだから皆に話してないんだろうな…ってな」


ククっと喉を鳴らして可笑しそうに笑うサンジに顔が熱くなるのがわかった。


こっちがサプライズをする前に、してやられた……



「……すっかり、忘れてたよ」



赤くなる顔を背けていったあたしたが、すぐに頭をポンポンと大きな手が軽く触れたので、


チラリと見上げた視線の先には、なんとも愛しそうに目を細める大好きな青い瞳が見えて、


……心を鷲掴みにされた



「ハハ、ちぃちゃんらしいや」

そんな艶っぽい顔もすぐ崩れて、デレデレといつものだらしない顔になったサンジにため息をついたウソップが口を挟む。



「いやいや、まてよサンジ、お前昨日はなんの日だったと思ってんだ?」



「…………ぁ」


「おまえも忘れてたのかよ!!」


すかさずはいったウソップのツッコミに罰が悪そうに頭をかく彼に、

不意に笑がこみ上げてきて、つい「本当に忘れていたのね」なんて声が漏れた。



「サンジ…もしかしてこれのために…」


「ん?……あァ、今日はさっきまでバーで働いてたんだ…もう少し早くかえるつもりだったんだか、雑用が逃げ出したらしくてな……」


それで全部ひきうけてきた、なんて彼らしい言葉にまた笑いがこぼれた。



手を動かせば誰かのため、


脚を動かせばまただれかのため、



ほら、ね、サンジはこういう人…


彼が誰よりも優しいのはよく分かってたのに、あたし…


「ごめんな?心配させたかい?」


覗き込む目が困ったように眉が下がったのをみて、怒ることなんてなにもなくて、


手のひらに乗る小さな箱がすごく愛しくなった。



「ありが……」


「…ざけんな!おい、クソコック!…てめェちぃがどんな想いでいたと思ってんだ」


「……ぞろっ、」


さっきまで息を荒くしてこっちをみていたゾロが、痺れを切らしてサンジの首元を掴んで詰め寄ったから、


敵わないとわかっていても目の前の巨体を必死で引き離しにかかった。



「………そうだな、すまなかった………だが昼間ルフィに街であった時に伝言頼んだんだが………」



と、全員がその相手に目を移したが……寝息だけが返事としてかえってくるばかり。



「………頼んだ俺がバカだったな」


すまん、と声を漏らしたサンジが頭を下げたので、それ以上なにも言えなくなったゾロの手を彼の襟元から引き離した。



「ちぃちゃん……決めてたんだ、これ渡したらきみに言いてェことがあったから」



整った顔がグッと近づいてきて真剣な目で見つめられた時、


全神経があたしの方を向いていて、その身体中からトクトクと波打つ心臓の音がこっちにまで聞こえてくるのは決して自惚なんかじゃないだろう。


なんとなくその言葉の先を見越してしまったあたしは慌てて彼の言葉を遮った。


「……まって、まってサンジ」


「……?」

「サンジからプレゼントもらったんだから……あたしもお返ししたい」


改めて、細身で背の高い彼に向き合うように立ったあたしに優しくまた笑いかけてくれるサンジに、今伝えたい。



「昨日たくさんしてくれたよ」


「そうじゃなくて……あのね、なにも用意できてないんだけど……あたしもサンジに言いたいことあって、……あたしね」




どうしてあたしはサンジのことばかり考えているのか、


どうしていつも彼を想うと、



苦しくて、切なくて、泣きたくなるのか



この胸の高鳴りをなんというのか、




ずっと考えていたの……





そしてきっと、それは……




……恋だって。




「あたし………サンジのことが好きみたい」


「………」





しばらくしてもなにも言わないサンジに恥ずかしさだけが身体を支配していて、


何かいってよと彼の方をみた時とほぼ同時に、その恋い焦がれた胸の中に引き寄せられた。




「夢じゃないよな……すげェ嬉しい」

「…は、恥ずかしいんだけど」


ぎゅぅっと力強く抱きしめるサンジに、心も身体もきつく苦しくてなっていく。



あぁ、サンジってこんなに背が高かったんだ。



なんかいい匂いするし、力が強くて骨ばった目の前の首筋には男を感じてドキドキしてしまう。



「…………おれはァてっきりゾロが好きなんだと思ってたぜ」


「は?」

耳を疑うような彼の言葉に思わず話題の人物に目を向けたが、


なんとも面白くなさそうにこちらを見るゾロはふんっと鼻をならしたあと、こちらに背を向けた。



「………好きなのはサンジだよ」

精一杯の想いを伝えようと、自ら彼の胸に飛び込んだ。

びっくりしたのか、目を丸くした彼はすぐに大きなその手で受け止めてくれた。



「……俺には最高のプレゼントだ、ありがとう」




そうやって目を細めて笑った彼は、やはりあたしの胸をうるさく鳴らすのだった。







この胸の高鳴りをなんと呼ぶ?






それは、あなたから受け取った



小さな小さな恋心





「あーあーあー…あいつら俺たちのこと忘れてんなァ」
「ウソップ〜、おれお腹すいたぞ」
「ふふ、あたしはもう二人をみてお腹いっぱいだわ」
「ロ、ロビンっ…〜〜〜」
「クソ幸せだァァ〜〜!」
「うっせェ、グル眉」
「…ヤキモチかマリモくん」
「んだとコラァ!」
「あー、はいはい、やかましい!」


ゴン!





END



Happy Birthday Sanji♪
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