Novels 短編

□ここだけの話
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あれから数日がたつと新たな島が見えてきた。



久しぶりの上陸にはしゃぐクルー達を横目にあたしのテンションはマイナスに近いほどだった。



島に降りる気にもなれず、自ら見張り役をかって出たものの、


一人でいると余計嫌なことばかり考えてしまう。




……サンジ……今頃きっと…



上陸したメンバーの中で、やけに上機嫌な彼に目がいってしまった。


多分ナミへのプレゼントを買いにいくんだろう……


もしナミもサンジを好きだとしたら…



想像しただけでじわりと濡れる瞳をゴシゴシこするあたしに隣からそっとなにかが触れた。






「………カルー、」


クエー、と力ない声は一緒に泣いてくれてるみたいに聞こえて涙腺は余計崩壊を増す。


「…ふ、カルぅ〜〜、…ひっく、」


おもいきり抱きつくと、暖かくてふわふわした感触にホッとする。



カルーに今は涙を吸い取ってもらおう。サンジが帰ってきたらちゃんと笑えるように…











「もうそろそろ帰ってくるころかな…」


それぞれの目的を果たしたクルーたちが少しづつ帰ってきたようで、

徐々に賑やかさを取り戻したメリー号。


「皆のところにもどろうか?」


んー、と背伸びしたあと、いつもかえってくるはずの返事がないのを不思議に思って斜め後ろに目をやった。







「なにを話しているんだい?」

「ひゃっ!…っサンジ」


見上げた先には、いつもみたいなスーツ姿じゃなく、パーカー姿にエプロンをしている彼がいて、


思いがけない人の登場に心臓が止まりそうになる。


「か、帰ってきてたの?」


とっくにね、と言って船の柱に背を預けてタバコの煙をあたしとは反対に吹き出した。



「おやつに呼んでも来ねェから、探しに来たよ」


「あ、ありがとう」


まだバクバクする心臓を悟られないよう必死で普段通りにキッチンに向かおうとしたあたしに、後ろからひとり言のように彼が話し始めた。



「………ここだけの話なんだけど」


「……え!」


どこかで聞いたことのあるワードに思わず振り返ると、


腰に手をやってこちらを見る彼と目があった。



もしかして……さっきまでの会話聞かれていたんじゃ…


そうだとしたら、そんな恥ずかしいこと耐えられない。


熱が上る顔を両手で抑えるあたしを不思議そうにみるサンジの言葉にスーッと冷めていく。


「今日、すこーしだけ晩御飯にキノコいれようと思ってんだ」


「…?」



は?……キノコ?



言葉の意味がよく理解できず、首を傾けるあたしに、


「ウソップのやつが好き嫌いなんかするからさ、細かくしていれてやろうと思って」


内緒な、と言って口元で人差し指をたてる彼に淡い期待が儚く消える。




まさかね…



偶然よね…




ほらね……サンジは気づかない、そう訴えるようにカルーに目配せして


半ば諦めたようにその場を早々と去ろうとしたとき後ろから腕を掴まれた。



「あのさ、………最近こんな話を聞いたんだけど」


いつもヘラヘラしているくせに真剣な顔をする彼は、この海で一番の思わせぶりな罪深き人。



彼の言葉にいちいち喜んだり悲しんだりしているときりがない。



「いつもここで秘密の話し合いが行われてるって…うわさ」


「え、…」


その言葉に開いた口が塞がらない。


それも束の間、今度は顔から火が出そうになるあたしにさらに彼は大ダメージを食らわした。



「……………ちぃちゃんが、おれのことを好きって……うわさ」


「……っ、」


思わずフリーズしてしまった。


言われた言葉の意味を理解するのにはさほど時間はかからず、


びっくりするぐらい大きな声で弁解するあたしの心は動揺するばかり。


「な、な……っ…そ、そんなわけないじゃない!誰に聞いたのよ!」


なに?なに?なに?



なんなのーーー!?



これはカルーとあたしだけの秘密なのになんでサンジが知ってるの!?



パニックに陥ったあたしはアワアワと動揺を隠しきれなくて、


ニヤニヤと笑う目の前の彼にまたしても大ダメージをくらわされる。



「チョッパーに聞いたんだ、ちぃちゃんがおれのこと好きだって」


「へ………、なんでチョッパー?」


「正しくは………カルーから聞いたチョッパーな」






……か、カルー!



そうだった。チョッパーはカルーと話できるんだった。


あれだけ秘密だと言ったのに、ましてや本人に伝えられるなんて…


この短時間で畳み掛けられるように襲ってきたダメージにクラクラして、開いた口が塞がらず真っ赤になって黙りんだあたしにサンジくんは最後の大打撃。



「………否定しねェんだ?」


「……ッ〜〜〜!」




もうお終いだ…


気持ちを知られた以上普通に仲間として接するなんてあたしには出来ない。


迷惑に決まっている。


きっと好きでいることも許されない。



さっきから彼が後ろ手に持っている紙袋はきっとナミへのプレゼント。


見透かすようなサンジくんの瞳に耐えかねたあたしは、下ばかりみては次に出す言葉を選んでいた。



「なァ、ちぃちゃん…………ここだけの話、すげぇ好きな子がまったく気づいてくれなくて困ってんだ」


ハッと顔を上げたあたしにニコっと笑ったかと思うと、持っていた紙袋を目の前に差し出した。



固まっているあたしにサンジはそっと近づくと、熱くて大きな手であたしの頬に触れた。


「………いい?ちぃちゃん、ここだけの話だよ?」


より一層近づいたあたしの目に静かに呼吸する彼の喉が映った。








「…………おれも君がすきだ、」


「……っ、!」




きゅうっと胸が苦しくなる。


とても言葉ではいい尽くせぬほど優しい顔で笑う彼は、この海一番の罪深い人。


「………ちぃちゃんの秘密、おれにも教えてよ」


初めてみるサンジの少し赤くなった顔をみるとなんとも言えない気持ちになる。


それまであたしの話を聞いてた黄色の彼は、少しずつ距離の縮まるあたしたちを目にした後、


ご機嫌に鳴きながらその場を離れていった。



そしてきっと、今度こそあたしは自分の想いを伝えることができるだろう。





ここだけの話なんだからね。







END
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