Novels 短編

□幸せの青い鳥
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まいったよい…



麦わら一味の船に着いたのはすっかり朝日も登り切ったころだった。



久々に会える時間を作ったにもかかわらず、ついついやらなきゃいけねぇ仕事を優先してしまう。


ちぃには悪いと思っているが、

仕事なんだから仕方ねぇんだよい…





「マルコ、てめー!おせぇよ!」


「悪かったねい、エース……っと、朝からお邪魔して悪いねい」



着くなりやいのやいのと騒ぐエースを軽くあしらってから


会いたくてたまらなかった彼女を探しにキッチンに入ると、いたのは朝から忙しそうな金髪の男だけだった。


「かまわねぇよ、どのみち昨日の宴はあんたも参加する予定だったんだろ?…一人増えようがどうってことねェさ」


「………」



コックの彼は口調は柔らかなんだが、目は明らかに敵を見るような光を宿っていて、



その視線は違和感という形でおれの前に差し出された。



「あー…さっそくなんだが、ちぃはいるかい?」


いくつか皿を運びながら、次々と朝食をテーブルに並べる。


平然とおれの前を通り過ぎた男から微かに香る匂いに身体が固まった。


「………あんた、そのにおい、」



反射的にがしりと腕を掴んだ俺に、男はあくまで冷静に


「彼女なら…医務室で寝てる、」


「……っ、そう、かよい。どこか具合でも悪いのかい?」



「昨日飲み過ぎちまったようで、朝起きてからずっと医務室で寝てる。そっとしといてくれ」


彼女のもとへ行くなと言わんばかりの言葉に少しだけ眉をしかめながらも、


おれは大人なんだからと何もなかったかのように静かに席について、


何か飲むかと聞いてきた男にとりあえず茶を頂いた。


「マルコ…どうした?」


変に無口になった俺を不思議に思ったのか、


隣に座っていたエースが目を丸くして覗き込んできた。


その言葉にチラッとこちらを伺う男の仕草にでさえイライラしたが、


もうすぐ皆起きてくるころだと、動揺する心を落ち着かせた。



「メシだーーー!…おう!鳥のおっさんも来てたのかぁ!」


「あぁ、邪魔するよい」


おっさん、というワードに少し苦笑いしつつ


次々と現れたクルー達、一人一人に挨拶をすませたころにはテーブルの上はご馳走でいっぱいになっていた。


「あんた来るの遅いわよ、ちぃ昨日はずっと待ってたのよ」


いつも気の強いナミとかいう航海士が詰め寄ってきた。


なんというか…この手の女は苦手だよい。


すると一緒に入ってきた黒髪の女が不思議そうに呟いた。

「そういえばちぃはどこかしら、昨日は部屋に戻ってこなかったみたいね」



部屋に…戻ってない?


ーーー『朝起きて来てから医務室で寝てる』ーーー


そういった男の言葉が頭の中で廻る。


辻褄が合わない女の証言に動揺しつつも、冷静にしようとするいつもの自分がいた。



「………医務室で寝てるんだよい」


あら、そうなの。とあまり気にしてなさそうなその女の隣で真っ青な顔をしたトナカイが目に入る。


「ちぃは具合が悪いのか?!」


医者ー!と叫びながらオロオロする姿に全員がツッコミを入れたところで朝食の号令がかかり、


皆が食べ始めたころにはトレーになにかを乗せて医務室の戸を叩く金髪の姿が目に入ったので、


慌てて席を立ってその背中を呼び止めた。




「…まて…っ、俺が起こすよい」


「…………」



「これはあんたの役目じゃねェ……」


その言葉に男は明らかにイラついた表情をみせたが、トレーを静かに渡してキッチンに引き返した。


その反応にホッとしたのも束の間



男の身体からは、やはり愛しい彼女と同じ匂いがした。







「…ちぃ、起きろよい」



「…うーーーん……まだぁ、」


なにがまだなんだろうか、と軽くツッコミながらも寝ぼけてる彼女が可愛くて目を細める。


「ほら、メシの時間だよい、皆待ってる」


くしゃくしゃと頭を優しく撫でながら、目線を同じ高さに合わせて顔を近づけてみたけれど



いくら年がいってるおっさんだとはいえ、聞き間違えたわけじゃないだろう…


その後の思考が停止する一言を。





「ん〜〜〜〜、……サンジ、くん?」




は?


「…………」



おれの気も知らずウーウー唸っているちぃの口から出た言葉をおれは聞き逃さなかった。


今すぐ出て行ってあいつを殴り殺してやりたいが…


今取るべき行動はそれじゃないねい…



「……ちぃ、頼む…起きてくれよい」


「ん…、、っ、あれ…?マルコ…」


ゆさゆさと少しだけ乱暴に起こすとやっと目が覚めたちぃはトロンとした瞳で俺をみた。


「……マルコ、なんでいんの?」


「久しぶりの再会なのに冷たいねい」


まだぼーっとしているのだろうか、細めた瞳が少しだけ潤んでいる。


それでもおれを捉えたその目は大きく開かれて、ベッドの柵越しに伸ばされた腕が首にまきついたかと思うと、


そのまま小さな身体が腕の中にすっぽりと収まった。



「………遅いよ、バカ」


「悪いな…約束破っちまったねい」


ぎゅっとキツくしがみついてくる目の前の小さな体が愛しすぎて


隣のキッチンでは皆が待ってるというのも忘れて無我夢中でかき抱いて、


柔らかい唇に息も詰まるようなキスをした。


「……んん、…マル、コ」


「……っ、は、」

角度を変えてなんども、なんども、


そうしないと目の前にいるはずの彼女がすごく遠くにいるような気分になる。



「ちょ…マル…、んぅ、」


足りない、足りない、足りない




この四ヶ月を埋めるには足りないくらい、彼女に会いたくてたまらなかった俺は



いつもの落ち着いてる冷静な自分を忘れてただただ夢中でキスをした。


そんなおれに、苦しいよと笑う笑顔には嘘偽りないことを願ったが



どうしてもその身体から香るあいつの匂いに動揺してしまう。


……なんでだ



「起こしに来てくれてありがと、ご飯たべに行こう………マルコ?」


立ち上がった彼女は一旦ドアの方に向かったが、今だに床に膝をついて固まっているおれに視線を戻した。



「………いつからだい、」



「………え、、?」


「…いつから、、おまえ…」


なんの感情もないくらい、冷たい低い声が出たことに一番じぶんがびっくりして、


それでも少しの可能性にかけて優しく彼女方をみたおれに対し


ひどく動揺しきったちぃの顔が歪んだせいでもろく崩れちまう。





「お二人さん、おとりこみ中悪いが………メシが冷めちまうぜ」



「………っ、」



タイミング悪く入って来たコックによってちぃの視線はおれから外れ、



困ったようにそいつをみるちぃに気づいてか、おれには見せない笑顔で優しく声をかけた。


「ほら、ちぃちゃんも早く顔洗っておいで、ご飯食べよう」



「……うん」


そういって不安そうにおれを振り返りながらちぃが出て行ったのを見届けたあと、


それまで黙っていたコックが唸るような声を出した。


「だから言っただろうが、具合が悪いって」


触れるな、なにも聞くな、離れろ



そう言ってるみたいで思わずカッとなった身体が、丁寧に結ばれたネクタイへと伸びた。



「おまえ……誰の女に手ェだしてんだよい」


「自分の女泣かすようなヤツに、しのごの言われる筋合いはねぇな…」




一発触発。



男の態度にイラついて咄嗟に身体から青く炎がチラつく


ちからだったらこっちの方が上のはずだ、やれる…


なのに頭の中にいろんなことが過って手がでない。







「サンジーーーーー!おかわりーーーー!!」


ガクン、そう聞こえたかのように自分の肩が下がった


間の抜けるようなエースの弟の声に気が緩み、それと同時に掴んでいた手を男が振り払った。


「……メシが冷める」



そう言って部屋をでて行った男の考えてることなんてわからないまま。



とりあえずいつもの俺らしくない行動を反省しつつ、罰の悪そうにキッチンの椅子に腰をかけて


こっちを不思議そうにみるエースの眼から逃れるように熱い茶をすすった。
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