Novels 短編

□宣戦布告
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さきほどまでキッチンにいたはずなのに、いつからいたんだろう。




そう思っている間にあたしの身体を引き寄せて、見るなとも言わんばかりに自分の後ろに隠したサンジくんは



普段からは想像もつかない冷たい形相でエースを睨んでいて



その瞬間、辺りの空気がゆらりと変わった。




「さ、サンジくん……」


「あー…悪りぃなコックくん、見てわかるだろ?お取り込み中だ。邪魔しないでくれるかい?」



こんなサンジくんにも少しも動揺せずに、いつもの調子で話すエースに余計ヒヤヒヤする。


「そんなの分かってんだよ。ルフィの兄貴だからって大目にみてたが………ちぃちゃんに触んじゃねぇ…」


「好きな女には触れたくなるもんだろ?…ルフィがいつも世話になってるからあんたには感謝してるが………これは別だ」


さも当たり前かのように答えるエースにもだが、一部始終をサンジくんに見られていたという恥ずかしさが今になって襲って来て、



顔から湯気が出るんじゃないかってぐらいに熱を帯びていく。


「保護者気分かなんだか知らないが、コックくんの出る幕じゃねぇよ」


「…んだと!?俺がいつ彼女の保護者だと言った!!」


一歩も引かないエースの態度にカッとなったサンジくんは詰め寄り彼の首飾りを掴んだから


このままでは取っ組み合いになってもおかしくないと思い


いくら強いサンジくんでも能力者相手にはただでは済まないはずだと二人の間に割って入った。



「ちょ、ちょっと!待って!…二人ともなに本気になってんの。…さ、サンジくんも!ただエースとジャれてただけだよ〜」


その場をなんとか収めようと明るく話しかけたが……それがまずかった。


「ちぃ」

「ちぃちゃん」


バッと同時に二人の視線がこちらに向けられて、思わず身体がビクリと跳ねる。



「さっきも言ったろ?俺は本気だ。」


「本気だろうが冗談だろうが、俺はこいつを君に近づけたりしちゃいけねぇんだ。まさか…ちぃちゃん、こんなやつ本気で相手にしちゃいねぇだろうな?」


「案外本気かもよ?もう少しってところであんたが邪魔したんだ。」


「てめぇは黙ってろ!!…ちぃちゃん、なんで好きでもないやつと二人きりになるんだ…俺が来たから良かったけれど目の届かないところだと守れねぇだろ?」


エースはともかく、サンジくんのこの言葉にはまた一つずつ傷跡をつけられる。

いつもエースに口説かれているあたしを知らん顔して他の女の子達に夢中なのはどこの誰なんだろう。


「別に…サンジくんに守ってほしいって言った覚えないよ!!」


「ははっ!振られたか」

もうエースの方を見るのも億劫なのか、サンジくんは聞こえないふりをしつつもかなりイラついたのか咥えていた煙草をギリリと噛んだ。


「ちぃちゃん…俺がいつもどんな気持ちで君のことを守って来たと思う?ちぃちゃんに自覚がないから俺がいつだって牽制してるんじゃないか…」



さっきから聞き捨てならない発言ばかりが彼の口から出てくるから


彼の言動に怒りに近いものが湧いてくると同時に自覚がない軽い女のように思われていたことに恥ずかしさが増す。

「な、…っ、あたしのどこが自覚がないって言うの?!サンジくんだって…その優しさなんなの?!親切のつもり?!」




守ってる?


牽制してる…?



サンジ君の気持ち…

…分かんないよ



「だいたい…サンジくんには関係ないことだから!これは…あたしとエースの問題なのっ!」


そんなあたしの言葉に気を良くしたのか、勝ち誇った顔のエースが口を開く。


「俺にはコックくんの自分勝手な発言にしか聞こえねぇな。あんたの浮気心は肯定して、ちぃのことは縛るんだな。おかしくねぇか?どの男を選ぶかはちぃの勝手だ。」


「エゴでもなんでも構わねぇ。さっきみたいに彼女に別の男が触れてるのをただ見るだけなんて…俺はもう我慢なんてしない!ちぃちゃんが選ぶのは俺以外あり得ねぇ」



「…お前のその自信はどっからくるんだ」


「そんなの当たり前だ………俺が誰よりも彼女を愛しているからだ」



愛してる…


その言葉に更に眉間に皺が寄る。


女の子なら誰でも構わず愛を囁く、そんな彼のどこが真剣だと言うのだろう。


…あたしの気も知らないで心を乱すサンジくんにどんどん怒りは増すばかり。



「もう…やだ、そんな軽々しく言わないでよ…」


「軽々しくなんかねぇ。ちぃちゃん、俺は本当のことしか言わねぇよ。」


彼の嘘の囁きがあたしの胸をどんどん押し潰していく。


嬉しいはずなのに本心とは反対に彼を信じられない想いが止まらなくて


一番にあたしのことを見ているはずの彼はこの気持ちに気づかないままだ。


「ばっかじゃないの?!そんなの信じられるわけないじゃない…!……サンジくんなんかっ、大嫌い!!」



一生懸命にあたしを諭そうとする彼の胸を押し返して離れようとして放ったその言葉。


その瞬間彼の顔は傷ついたように苦しく歪み、遠慮がちにあたしの手をそっと握った。
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