Novels 短編

□世界を敵に回しても
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「俺ら…別れようか」




絶対に口にすることはないと思っていた言葉。


手には痛いぐらい力が入っていた気がする。


喉は息苦しくて、空気をまともに吸えなかった。


あの時の、彼女の顔が頭から離れねぇ。






side----サンジ






初めて会った時からもう好きでたまらなかった。これが一目惚れってやつかって思ったさ。



ちぃちゃんが仲間になると決まった時はすげぇ嬉しくて、仲間として傍にいれることが幸せだった。


たがそれ以上に俺のこの気持ちを伝えた時、


彼女が同じ気持ちで頷いてくれたことは後にも先にも幸せの絶頂だった。


絶対に彼女を放したりはしない。


そう心に固く誓ったはずなのに、口では反対のことを話していた。



「………分かった。」


「…っ!」



泣いて、縋って、怒って、、、


そんな風に俺を引き留めるんだろうと思っていた。


行かないで、傍にいてって、


きっとそう言われても俺は彼女から離れようと決めて自分から告げた。



それなのに涙一つ見せずにまっすぐ俺に向かって返事をした彼女の瞳は、あるようでそこにはなかった。


「これからも…仲間として接するから…」


「うん……あたしも。」


冷静に考えたら彼女の気持ちなんてすぐ分かる。


なのに、もしかしたら彼女とって俺はそんなに必要な存在じゃなかったんじゃないか。


そんな自分勝手で嫌な考えが頭に過ぎった時は、もう彼女は俺の前から離れていた。









あれから二週間たった。


海もサニー号もクルー達も相変わらずなもんでなにも変わっちゃいねぇ。


変わっちまったのはもう俺とちぃちゃんは仲間以外のなにものでもないということと、彼女があれから俺を避けるようになったこと。


当たり前だ。気まずいに決まっている。


でも俺はなるべくちぃちゃんが仲間として居やすいように、最善をつくした。



もう傍にいられないのならせめて彼女の居場所だけは守ってあげたい…



「おう!サンジ、ちぃを見かけなかったか?」


その日の午後、キッチンで昼食の後片付けと夕飯の仕込みをしている俺にチョッパーが声をかけてきた。


まだちぃちゃんと別れたことはクルーには言ってねェ。



「いいや、見てねぇな。」


「そっか………」

俺は平然を装って答えたんだが、
たチョッパーは、キョトンとしてクリクリした目を一層丸くする。


「どうした?チョッパー」


抱き上げて、顔を覗くとムッと口を膨らませて、


「うん。サンジやっぱり変だぞ!」



…は?



「え?……俺か?俺のどこがおかしいってんだ?」


言ってみろとばかりにチョッパーの頬っぺたをつまんで横に広げる。


「イテテテテ!だ、だって!変だぞ。サンジがちぃの居場所を知らないなんて」


「…っ!!」


「それにちぃがキッチンに最近居ないのも変だし……サンジだって、いつもみたいにちぃのこと追いかけ回してないぞ!」


驚いた…こんなことを考えていたなんて。
いつも子供扱いしかしてなかったからな…



「………そんな風に思ってたのかチョッパー」


俺の言葉に一瞬ビクリと身体を固めたトナカイは、少し遠慮しながらこう言った。


「俺にはなんとなくわかるんだ。サンジからちぃの匂いがしなくなってるし、ちぃからも………だから、やっぱりお前ら変だ!」


そう言った所でウソップがチョッパーを呼ぶ声がしたので、トナカイはスルリと俺の手から抜け出して去って行った。



「……変、か」



チョッパーに言われた何気ない言葉なのに、ズキズキと胸に刺さる。


ふいに、今ちぃちゃんは何してるのか、どこにいるのかが気になってきた。


仕込み用の鍋を火から降ろして、俺は急いで船内をさがした。


捜してどうすんだって言われると正直分からねぇ。


ただ何も考えず、気づけばグルリと船を一周して元居たキッチンの前に立っていた。



諦めて入ろうとしたが、すぐ近くの脱衣所から声が聞こえた気がして、その声が捜していた人の声だと分かった時にはもうすでに脚は前に出ていた。




「ちぃちゃ…」


「…何があった…コックと」


次に聞こえてきたのは、いけすかねぇマリモの声。


思いがけない人物に声も出ず、扉の前で身体が勝手に固まった。



「…っ…ゾ、ロ…あたし…」




嗚咽混じりで言葉を紡ぐちぃちゃんは、必死に歯を食いしばって何かに耐えているようで、



今になってようやく大切な人が泣いてることに気づいて、抱きしめたくなる衝動が襲ってきた。



「言いたくないなら……何も言うな、ただな…俺の前では泣いとけ」



そう言ったマリモは彼女の肩に手を回し抱き寄せて愛おしそうに頭を撫でたから俺の拳にも力が入って、


今すぐ二人の前に現れて引きはがしてぇ気持ちも



ちぃちゃんがあいつの胸に顔を埋めるのを見てからは、



もう自分にはそんな権利なんてないと自覚するのには十分だった。



すごく大切な人を傷つけちまった俺にはもう彼女にしてあげることはなにもないんだと、



告げた自分の言葉の重さを身で感じ、冷たい秋の風から逃げるようにキッチンへ向かった。
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