過去拍手Novels
□ハートの音を響かせながら
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もう二度と会えない。
そう、思っていた…
「……っ!ロー!ロー!」
……なんつう顔してやがる。
ドレスローザでの一件を終え俺はここゾウにたどり着いた。
それぞれが再会を喜び合っている最中、周りに目もくれずまっすぐにこちらに走ってきた女を両手で受け止める。
そんな夢を何度見ただろうか…
だけど、ずしりと感じた重みと暖かさが、
これは決して夢ではないことを教えてくれた。
「……………」
「………ナミ…」
ぽすっと綺麗に収まった華奢な身体は、
ギューっと俺の背中に力強く腕を回して、
引き剥がそうとしてもビクともしない。
ウソだろ、非力な女だぞ……スッポンかこいつは……
「……おい、おまえっ、いい加減に離れろ」
「…………」
「無視してんじゃねェよ、離れろってんだ」
「……いやッ!」
「……なっ、!」
思わず受け止めたが今更周りの目を気にして本気で引き剥がしにかかったが、
ずっと黙っていたこいつの肩が震えてるのをみて、
まさか……泣いてんじゃねェだろうな。
なんて内心ビクビクしながら強めに言い放った俺に、
たった一言、「いやッ!」……ときたもんだ。
今度は嗚咽をあげながらしがみ付いてくるもんだから、余計内臓がヒヤッとした。
「お、おい、ナミ」
「…っ……ふっ、」
「…泣いてんのかよ」
好きな女の涙に、男は弱い。
惚れた側となると尚更だ。
こんなに冷たく接しているが、実際好きになったのは俺の方が先で、
本当は、こいつが泣くのなんて見たくもねェんだよ。
でも、今回ばかりは……
俺が悪い。
もう二度と、会えないと思っていた。
会わないつもりだった…
それなのに、情けなくも生きている。
ここにいて、またこいつに会えるなんて…
そんなことを考えている間に余計ぎゅーっと抱きしめてくるナミを今度は誰にも見せたくなくて、
そのまま横抱きにしてその場を離れることにした。
ーーーーーーーーー
「……おい、そろそろホントに離れろ」
「……………」
「…おい、聞こえてんだろ、ナミ」
二人きりになるためにわざわざ自船に戻ってこいつをベッドの上に寝かせたはいいが、
離れようとするおれにしがみついてるせいで変な体勢のまま動けずにいる。
くそ……これじゃおれが襲っているようなもんだ。
さっきからずっとだんまりなナミがようやく口を開いたと思えば、
聞こえたその言葉は離れ離れになったあの日から互いに同じ想いだったのだと気づかせてくれた。
「…………会いたかった」
ボソッと息を吐くように聞こえた小さな声に、胸が痛んだ。
何も言わずに、勝手な行動をして、
こいつらと同盟を組んだ裏ではおれの私情による計画で、ドフラミンゴと相討ちで死ぬつもりだった。
こいつを残して……ほんとうに死ねたのか、おれは……
「……でんでん虫から、銃声聞こえた時は……ッ、心臓が止まったかと思った…っ、あんたのことが……心配でっ、たまらなくて……でも、なんにもできなくて……っ」
いつも強気なこいつが、震えながらこぼす弱さを、
ひとつも落とさないようにいつもより優しく抱きしめた。
両手で抱きしめてることに、一度腕を失ったことを思い出す。
こうしてこいつに触れられるのも、声を聞けるのも、ぜんぶ、ぜんぶ、
……生きてるからだって。
「………こうやって、会えてるのも……もしかしたら夢で…っ、目が覚めたらあんたがいなくなってるんじゃないかって…ッ!!」
壊れるんじゃないかってくらい泣きじゃくるナミをたまらず強く加減もせず力を入れたことで、苦しそうな声が漏れたが、
そんなこと気にする余裕もなくて、すぐ横にある柔らかい頬に手を添えてナミの顔を覗いた。
「……よく顔を見せろ」
「……っ、見ないで…」
真っ赤でグチャグチャな顔を必死で隠すナミを、可愛いと思ってしまうおれはどうしようもない奴だな。
「……悪かった…心配させて……それと、」
「………?」
「…………ただいま」
「……っ、」
「ただいま、ナミ…」
船のクルーにも言ったことがなかったその言葉。
帰る場所があっても面と向かって言うのなんて恥ずかしくて言えるか。
でも、こんなになって俺のこと待ってくれていたこいつのことを思うと、
自然と息を吐くように出たものだった。
「………」
「……見んじゃねェ」
「……だって……っ」
「……ニヤけてんじゃねェ」
まるでさっきと真逆だ。
驚いた顔をしたかと思えば、嬉しそうに顔を緩めるこいつの頭を小突く。
言わなければよかった、なんて考えをよぎらせ起き上がろうとした俺にまたしてもひっついてきたナミは涙ながらにこう言った。
「………おかえり……っ、おかえり、ロー」
「……っ、」
ふわり、風のように柔らかく懐かしい笑顔でナミは笑った。
もう随分も会っていないように感じて、
ふいに、こいつが二年前に突然消えちまったときのことを思い出す。
ぽっかり穴が開いたような寂しさを感じたときには、もう遅かった。
それでもどこかで生きているって、
ずっと信じて待っていた。
次会えたら二度と離さないと決めたのに、おれは同じ想いをこいつにさせたんだな。
泣き腫らした瞳をもっと近くで見えるように、引き寄せると互いの鼻先が触れた。
照れくさそうに目をそらすナミのうなじに手を回してなぞるように滑らした。
「……っ、ちょっと、ロー…」
「……なんだよ」
「誰が来るかも分からないのに……っ、んん…」
「その方がスリルがあっていいだろ、ほら…もっとこっちに来い」
腰を抱き寄せて、唇を合わせるとすぐに漏れる吐息にゾクリとした。
どうして男はすぐにこうなんだろうな…
仕方ねェ……おれを誘うこいつが悪い。
「…ちょっと!ほんとに!だめだって…」
「てめェさっきまでおれから離れなかったのはどこのどいつだよ……諦めろ、おれはもうその気だ」
「…なっ、…ドヤ顔で言うこと?!」
気が逸れてるうちに脚の間に割り込んで、逃げれないように組み敷いたおれにナミはビクリと固まった。
ほんとに……追いかけると逃げようとする…こいつはネコだな。
ふーっと息を吐いて、ゴロリと横になったおれに「へ?」と気の抜ける声を出したナミは目を丸くした。
「……抱きてェのは本当だが…」
「…………」
「こういうのもたまには、悪くない」
無防備なこいつに軽くキスをして、そばにあった手に自分のを絡めると驚いたように息を呑んでいた。
同じように横になったそいつに近くにあった毛布を寒そうな肩にかけると、
急に眠気が襲ってきたのかトロンとした瞳が何回か瞬きしたから、
安心させるように髪を撫でて囁いた。
「…起きるまでそばにいてやるよ」
これからずっとこいつのそばで安心して眠れるんだろうと思うと、知らずと頬が緩んだ。
そうして、俺も程なく眠りにつくことになる。
生きてる証拠の
「ハートの音を響かせながら」
END