過去拍手Novels

□想定外もいいところ
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あたしが本気で恋する相手は、







例えば、そう…












「想定外もいいところ」












想定外もいいところよ。



本当に全く、こんな女にスーパーだらしない男。


隙があればメロリンメロリン、


これでもかってほど愛を叫ぶ軽いヤツ。


…まぁたしかに、今まで出会ったことなんてなかったわ。


だからあたしは麻痺しているだけなのよ。


こんな風にストレートに好きだ好きだなんて言われたことないから。


だから女に超だらしないこんな男のことが気になるんだわ。


そうに決まってる…


だってあたしが恋するのは、もっとあたしだけを見てる誠実な人だもの。



そうよ、きっとそう。




だから言ったのよ……あんなこと。





ーーーーーーー







「………で?ちょっとは俺に抱かれる気になったか?」


「呑みに誘われただけで勘違いはよして、ロー」


「ふっ、お前は本当に素直じゃねェなァ」



目の前でカラカラと氷を鳴らす男は、ニヤニヤときみの悪い笑みを浮かべた。


グラスを顔の近くで回しながら肘をついて飲むその姿は最高に色っぽくて、


首筋がムキっとでているその喉に眼がさっきからいってしまうのは不可効力。



「久々に会うなり俺を捕まえて今日一日中連れ回したのはどこのどいつだ?」


「別に、暇だったのよ……ローでなくても誰でもよかったわ」


「よく言うぜ…それならいつも荷物持ちとかこつけてお前の周りをウロウロしていた奴を誘わなかったのは何故だ?」






あの女好きのコックを……





ローのその言葉にピクリと反応してしまう自分がすごく嫌で、先ほど運ばれてきたお酒を一気に流し込んだ。


いつもならこうやって飲み過ぎる前に彼が止めに来てくれて、

呑ませすぎだとかゾロに悪態づいたり、歩けなくなったあたしを部屋まで運んだり、

おやすみ、良い夢を。なんて囁いてくれたりするのだが、


ここ数ヶ月はパッタリとそんなことなくなった。


なんで、なんで、どうして…



そんなこと考えずともその理由は私には分かっていて、そしてそんなことなんかで変わってしまった彼の態度に心底イライラしているのだ。


「……ナミ、おまえ今だれのことを考えている」


次の酒瓶に伸ばそうとした手が、ローの熱くて硬い手によって捕まえられた。



まっすぐにあたしを捉えるローの瞳から、あたしの欲しかった誠実な心がそこにあるようで心が揺れる。


それと同時にあの青い瞳があたしを見ていた頃が頭に浮かぶ。



あたしがあんなこと言ったからだなんて、


思いたくないけれどそう思うしかない。





ーー「そんな君が好きだよ…」ーー



あの日、またいつものようにあのワードを言おうとしたサンジくんに、

ずっと思っていたことを可愛げもなく言い放ってしまった。



ーーー「だから俺と……」ーーー


ーーー「サンジくんのそれ、嘘っぽい……」ーーー



あの日の言葉がお酒と一緒に頭を回る。


サンジくんはあたしのその言葉に、へらっと笑うこともなければ軽く受け流すこともせず、しばらく沈黙したあと仕込みがあるから戻るねって言ったまま見張り台からおりていった。


その態度に一番驚いたのはあたしだった。


あんな真剣な顔や声は初めてで、


そんな彼を意識して意地をはったのも事実。


そしてサンジくんはそれきりあたしに近づかなくなり、今日もロビンについて島に降りたのを確認した。


だから言ったでしょ?


彼は誰でもいいのよ。


女だったらだれだって好きなんだから…







「…………」


「…ふーん、あいつがそんなことをねェ…」

「は?、あたしなにも言ってないわ」

「…全部声に出ていたぞ」

「…………」



それにお前の目は口ほどにものを言う。






ぼそっと溢したローのその言葉に顔が熱くなるのがわかった。



でもね、でもねロー、



もしその言葉が本当なら、あいつはとっくにあたしをモノにしていたっていいとこよ。


それでも、幾度となく想いを告げてきた彼を軽くあしらったのは、


サンジくんの本気を試していたからだなんて……



今となっては、後の祭り。


どうでもいいことよ。





「おまえ、気づいてるか?今日一日きょろきょろしやがって……だれを探していた…」


「…………」


「あいつの気を引くために俺を使うなんて、いい度胸じゃねェか」


「…べ、べつにっ、そんなんじゃ…」



次々と当てられていくあたしの企みを暴いていくローに動揺を隠せない。


そんなあたしに対して目の前のショットグラスを飲み干したかと思うと、

隣に座っていた彼は膝の上に置いていた手をギュッと握りしめて、


いつもの悪態づいた顔からは想像もつかないほどの優しい顔で甘く囁いた。



「俺はな……好きな女が誰を見ているかくらい分かっているつもりだ」

「…っ、ロー…」







『サンジくんのそれ、嘘っぽい』






あの言葉は……





そうやって自分から離れなきゃ、



後で傷つくのが嫌だから。




本気になった時が怖いのよ。





彼を失う方が……怖いの。





「………おまえは、おれといる時でさえほかの男のことばかりだな」


「…………」


「いや、違うか………あいつのことばかり、だな」


恥ずかしさから目を見れずにいると、大きな手が頭に落ちてきた。


びっくりして見上げた先には初めて見る寂しげに笑うローの顔だった。




「俺は帰る、あとは好きにやってくれ」



ガタリ、と音を立てて立ち上がると、


置いてあったトレードマークの帽子をかぶって、チラリとこちらをみた。


「ただし、また泣かすようなことがあればいつだって奪いに行くぞ」


そう言ったきり、ローは店から出て行ってしまった。


言っている意味が分からなくてあわてて振り向いて呼び止めようとしたが、

その背中を追いながら彼の言葉の意味を考えていたとき、先ほどまでローが座っていた席につく男に声を失った。





「………っ、」


「呑みすぎだよ、ナミさん」



なんで、なんで、なんで


いつも彼はこうもタイミングが良いのだろう。



もう終わりだなんて思って、他の男の優しさに甘えそうになったとしても、


それでも消えない、消せない。


あたしは、いつもいつもそれに精一杯なのに、


いとも簡単に彼の優しさに包まれる。





「あいつに……惚れちゃった?」



久しぶりに間近でみたサンジくんの顔は、彼の髪に隠れて見えなくて、


どんな顔で、どんな瞳で、そんなこと言ったかは分からないけど


彼の手があたしの手にいつの間にか重なっていて、


熱く、強く、握られたその手は離れることはなかった。


ほんとうは、ずっと、ずっと前から、


こうしてみたいと思っていたの。










ほんと、







「想定外もいいところ」










航海は何があるかわからないものよ。








だから、









予期せぬ、恋のハリケーンにご注意ください。









END

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