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□悪い奴ほどよく眠る
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この世には慈悲など持ち合わせていない




悪い奴がいるもんだ。










「悪い奴ほどよく眠る」








「あら、あんた島におりなかったの?」



男部屋で昼間から寝ていた俺をノックもせず入ってきた女が見下ろしていた。


普段からノックは最低限のマナーだなんて言ってる奴がズカズカと人のプライベートゾーンに入ってくる様は


どこぞのおとぎ話の恐い女王様みたいで、返す言葉も出てこない。


そんな俺の反応なんか気にもとめず、乱射されるマシンガンのごとく話しかけてくるナミに極力短く気の無い返事をする。





………眠い。






「ねェ、サンジくん知らない?」


「あ?知るかよ……買い出しだろ」


「もうすでに行ってきたみたいなのよ、どこに行ったのかしら……探してもいないのよねー」


「…街に行けばいいだろ」


「こんな可愛いレディが独りでうろつくなんて危険でしょ」


「………」


「ちょっと!なんとか言いなさいよ」


なんだかんだ話しているうちに俺の足元に座ったナミは腕に重心をかけて乗り出してくるもんだから……


バカ……見えるだろうが


ふいっと目をそらして寝返りをうつと、つまらなさそうに独り話し始めた。



「あーあ、あんたってホントあたしに従順じゃないわよねぇ」


「男が皆、コックみたいだと思ったら大間違いだな」


「あら、あたしの可愛さならイチコロよ………まァサンジくんはちょっと重症だけどね」


くすっと笑う横顔にチラリと目をやると、意外にも眼が一瞬合ったことでドキッとする心を読まれないように冷たく言い放つ。


「コックはいねェんだ……さっさと出てけよ」

「………ふーん、サンジくんいないのね」




あぁ、いねェよ。


お前のために明日は島でプレゼントを選んでくるとか昨日話していたしな。


わざわざ男部屋でする話かと、自分に自慢されているような気がして


むしゃくしゃしてついいつものケンカになったのをウソップが止めに入ったんだよ。


お前のために朝早くにみかんの手入れしたりとか


お前のために好きなもん作ったりとか

あいつの行動全てがナミのためで、俺はイライラしてんだよ。


そんでそんなあいつに惚れてるお前にも…




キシ…っ、



聞きなれた筈のスプリングの音にドキッとするのは、限りなくナミが近くにいたからだった。


甘えるような猫撫で声も、真っ白で色っぽいその首もとも、全部が俺を反応させる麻薬みたいなもんだ。


慌てて顔を反らすと肩にそっと手が伸びてきて、その部分がジンジンするように熱い。



「…………ねぇゾロ…サンジくんがいないなら…………」


「……あ?いねェんだから…島に付き合えってんなら俺ァ行かね…」


「…………あたしのこと抱いて」





「……………………は?」


思わず、振り返ってしまったが、



それがいけなかった。






チャリっと三連のピアスが鳴ったかと思うと、ナミはそのまま紅い唇を合わせて

あろうことか上に跨るような体制になり

それがなにを想像させるかなんて男なら反応せずにはいられない。



「……っ!な、なにしてんだおまえっ」


「なにって………キスしちゃだめ?」


「……ダメもなにも…っ、おまえはコックの……」


「……恋人だから?」


「………………」


後ろにどんどん下がって、キスしようとするその身体を引き剥がすのに必死だった俺は

起き上がっても尚、迫ってくるナミに跨がられる形で壁に追いやられることになる。


……くそっ、さっきからいい匂いするし


それだけじゃねェ、こいつのサラサラした髪とか柔らかい肌とか潤んだ瞳とか……


全てが俺を狂わせる。




「………………サンジくんがね、いつも…………ナミさんを絶対他の男に取られたくないって、言うのよ……」


「………………」


「…………サンジくんがどれだけ従順か、よく分かっているわ……でも」


ずっと昔から触れたかった手が伸びてきて、白くてヒヤリとしたそれが俺の頬にそっと添えられた。


「………………」


「こんな不逞な女でも……愛してくれるのかしら」



目の前で話す女は……俺のことなど見ちゃいなかった。


「…………おまえ、それが目的なのか?」


「さぁ……どうかしら」


「…………相変わらず魔女だなてめェは」


「なんとでも言いなさいよ」


ふふっと艶美な微笑みがどういうことを意味しているのかはわからない。


分かっているのは俺がその一歩を踏み出せば確実に戻っては来れなくなること。


「……なんで俺なんだよ、ルフィでもいいだろうが」

「あいつには食欲しかないわよ」

「わかんねぇだろ……それに……あの隈野郎とかルフィの兄貴もいんだろ」


「ローのこと?あいつじゃ遊びになんないじゃない…本気にされると困るの……エースも 同じ」


するりと首に回された腕が心地よくなる……


ダメだ、ダメだダメだ…っ

深入りする前に離れろ……

こいつは俺を弄ぶことしか考えちゃいねぇ。


「…………俺だと、遊びで終われると思ってんのかよ」


「…………そうじゃなくて、なんていうかあんたは……」


「………………」


「……あんたは、あたしに弱いから」


コツンと合わさった額がスイッチみたいなもんだった。

気づいたら細い肩をかき抱いて乱暴に唇を合わせていた。

そこから止まらなくなると下着みたいなナミの着ていた服に手を入れて、

肌に滑らしたことでこいつが何もつけてないのが分かって興奮せずにはいられなかった。


「…ん、っ……はぁ、ゾロ……」

「…………」

「……ゾロ…っ、」

「……っ、うるせェよ」



ずっと聞きたかった。

こいつは……ナミは、男の腕の中でどんな風に鳴くのだろう。


どんな匂いがして、どんな味がするのだろう。


きっとどこも滑らかで、柔らかく、白くて、綺麗で、


そんな虚しい妄想を今までどれだけしてきたか……




理性が効かなくなった俺は座っていた体制からナミの身体を組み敷いて、腕の中に閉じ込めた。


わざとらしくベッドを鳴らすとそのまま着ている服をずらして、綺麗な膨らみに手をかけたまま

どちらからともなく合わさった唇をこじ開けるように舌を入れてナミを味わっていく。





好きだ。


そんな言葉がこぼれ落ちそうになって、飲み込むように必死で舌を絡めた。



「……んんっ、はあっ、くるしい……ゾロ」

「……は、ナミ……っ、知らねーぞ」

「んん、……っ、あ!」

「途中で嫌だって泣いたって止めてやれねェからな」


乱れた服からはみ出している胸や太ももが目に入った時点で、俺の理性はゼロに近い。


なのに、直前でこんなこと聞くのはこいつの泣き顔が見たくないから。


最後まで、とことん惚れてるのは俺だ。



「あんたは…………あたしを傷つけたりしない」

「…………………」

「……サンジくんはね、あたしの胸を痛くするの……辛いの……っ、サンジくんに愛されないとあたし……っ、」


その先は聞きたくもなかった言葉が出てきそうで怖くて封じ込めた。


こいつの愛は屈折してる。


そんなこいつを愛してる俺もまた変わっているんだろうな。


なんにせよ、従順な恋人が自らを愛しているのに確認なんて必要ないことなのに、こいつはまだそれでも足りないという。


足りない分を他の男で埋めるなんて魔女みたいな女だな。


それでも、そこに付け入る俺はこのまましばらくこいつを腕の中から出してやれないのだろう。


そしてまた普段と変わらず、素知らぬ顔で過ごしていく。


バレることなんて怖くない。


こいつに触れられないよりマシだろう。



きっとこの日のために、ずっとこいつに甘い顔をしてきた気がする。


こいつが寄り付いたとこをいいことに、コックを想う繊細な心を騙して自分のものにするために。





だってほら、悪い奴ほど高いびき、




そして、











「悪いやつほどよく眠る」










骨の髄までしゃぶりつくしてやるさ。








END

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