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□悪魔の羽をつけた
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一度気になり出したら止まらなくなる。







たとえ他の誰かのものでも……






「悪魔の羽をつけた」









「ナーミさん、蜜柑のお手入れ手伝いましょうか?」


「あら、サンジくん……じゃあお願いするわ」

「あいあいさっ」


「………………」





一度気になったら止まらなくなる性分だった。


2年前からあいつのやることなすことすべてが気になって


強がりなところも、素直じゃないところも、


男に負けない器量の良さもすべてが俺を惹きつける。


それでも、この想いがなんなのかよく分かっていたなかった俺は


ただ、仲間の一人として、酒を交わしてあいつの口から頻繁に出る男の名前に嫉妬していた。


それは2年経った今でも同じこと。



今日もこうして二人を芝生甲板に寝そべってチラチラ見ることしかできないでいた。



違うのは、この胸の痛みの理由を気付いちまったことだ……




「ん〜、今回もいい出来だわっ」


「そうだ、ナミさんこのみかん少しもらえないかな?マーマレード作ろうと思って、ナミさん好きでしょ?」


「え!ほんとに?あたし大好きなのっ!」


「……………」



マーマレードを好きだと言っているってのは分かってんだが……



あいつの眩しい太陽みたいな笑顔が


コックのことを見て微笑んでいるのかと思うと………




しかも、「好き」なんて言葉をコックは頭ん中で都合良く置き換えているに決まっている。


実際のところデレデレしたあのだらしない顔からして大方の予想は外れてないだろう。



「よし、じゃあ今からキッチンで作るから、できたら今日のおやつと一緒に持っていくよ」

「それ……あたしも一緒に作っちゃダメ?」

「え、そんなの俺やるからナミさんゆっくり休みなよ、最近天候も荒れてたしあまり寝てないでしょ?」


「いいのいいの、昔よく作ってたから懐かしくなっちゃって……邪魔しないから見ててもいい?」


「そんなァ〜邪魔だなんて思っちゃいないよ〜」


そんなやり取りを親密そうにする二人は、取り終えたカゴいっぱいのみかんを手にキッチンへと消えていった。



………なんだよ!いまの!




二人きりで、しかも昼間なんて誰も寄り付かないキッチンで……


だァァァーーーっ!

……くそっ!


一人で悶々としながらキッチンに行こうかと迷っていると、近くでお茶を飲んでいた年上組が楽しそうに井戸端会議をしているのが目に入った。



「にしても、最近小娘とコックのやつはなにやらいい感じではないか?」


「ヨホホホホ、それ私も思っていたところです。はい」

「ふふ、時間の問題ってところかしら」



楽しそうに人の色恋を話すそいつらに、若干……いや、かなりイラついていた俺は嫌味妬み満載の言葉を投げかけた。


「…ふん、コックが舞い上がってるだけだろ…あんな魔女みてェな女、俺はごめんだな」


自分でも分かるぐらいの嫉妬心丸出しの台詞にロビンが笑ったのをきっかけに


その周りにいたルフィやウソップもなんだなんだと駆け寄ってきて、話はどんどん膨らんでいく。


「じゃあゾロさんは、ナミさんにはときめいたりしないわけですか?あんなに魅力的な女性ですから、サンジさんがああなるのも無理もありませんよ?」

「魅力的だァ?あんな男を良いようにこき使う女なんか、女じゃねェよ…ありャァ魔女でもない悪魔だな」


俺の言葉にビクビクするウソップはナミに聞こえたらと心配しているのだろう。

そんなのお構いなしに俺の見栄は止まらなくなる。


ほんとうはこんな事思ってるわけじゃねェ


ほんとうは、俺にだけ笑って欲しくて、


俺にだけ語りかけてほしい


俺にだけに触れて、俺だけを見てほしい。


ただそれだけなのに、口からは真逆の言葉がでてくるばかり。











「ふーーん……あんたずっとそう思っていたんだ?」



ぎょっとして振り返ると、キッチン前の手摺から俺らを見下ろすようにして前かがみになっているナミがいた。






「だれが魔女みたいな女だって?」


そう言って首を傾げる仕草が無意識なのか計算なのか分からなくて冷や汗が出る。


ササッと後ろに隠れるウソップにはヤベエセンサーが反応しているのだろう。


「なんだよ……大方当たってんだろうが」

「……まぁあたしは自分に都合よく動いてくれる、従順な男が好きよ…………サンジくんみたいな、ね」


「……っ、」



こいつが……ナミが2年前から何かと呼ぶのはコックの名前で


「サンジくんがね、サンジくんがね、」


その可愛い口からでる憎らし名前に、何度そのまま力づくで塞ごうとしたか、

あいつが俺の元からコックの所へ行くのを何度手を掴かんでこの腕に閉じ込めようとしたか……



「……別にゾロに好かれなくてもあたしは気にしないわよ」


そう言ってフッと笑ったナミの髪を潮風が優しく撫でる。


その柔らかい絹のような髪を、触れる事が許されるのは…………俺じゃない……



何をしても絵になる女は、そっけないその一言でも全てのものの視線を惹きつけ離さない。


現にいま、俺たちのやりとりに釘付けになっている甲板からの視線も


きっとナミのその魅力的な何かに目が離せない。


「…………悪かったわね、ゾロ……」



その言葉にハッとして顔を上げると


困ったように眉を下げて笑うナミが、


少し悲しそうにみえて、


風を肩で切ってキッチンへ向かうそいつを


有無を言わせぬ力で、思い切り引き寄せた。


「きゃっ……」


無我夢中で掴んだその細い身体は、少しでも力むと壊れてしまいそうで


手が震えている俺を不思議そうに丸い目が振り向く。



「………俺は、2年経って気付いたことがある」


「……………」


「お前が……お前の口から他の男の名前が出ることが、無性に腹が立つ」


「……………」


「…………俺以外に笑いかけているのを見ると、そいつから引き剥がしたくなる」


「…………」


「おまえは、悪魔みたいな女だ…………俺の心を掴んで離さない…………おまえがこの胸を締めつける」



かっこ悪くていい、嫉妬心丸出しで


男らしさなんて捨ててやる


俺はただ他の誰かのものでも……おまえが欲しい。



懇願するように華奢な肩に額を押し付けて、はぁっと悩ましくため息をついた。


らしくないことをしているのは分かる。


でも、どうしても……こいつが欲しくてたまらない。




「……………どうにかしてくれ」







おまえの可愛さは、悪魔みてェに残酷で



天使のように……罪深い。





「……あんた、」


「…………」


「やっとあたしのこと好きって気が付いたの?」


「………は?」



その言葉の意図が分からずにこの上ない至近距離にいたナミから少し距離をとると


してやったりな顔でこちらを見る顔が、俺の思考回路を余計狂わせる。



「好きなんでしょう?あたしのこと」


「んなっ!そ、そんなんじゃねェよ!」

慌てて否定するも時すでに遅し、さっきの告白まがいな言動に他のクルーたちもキラキラ目を光らせて面白おかしく見ているのだった。



「え?違うの?じゃあ今の歯も浮いちゃうような告白はなぁに?」

「な…っ!告白じゃねェよ!ばかやろう!」

「えー、そうなの?だってあたしが他の人といるとって…」

「だぁぁぁぁー!それはだなっ、……っ」


くそっ、顔が熱い……


墓穴を掘った上に弄ばれてるこの状況を面白がるようにナミはぐいぐいと迫ってくるが。


胸元がさっきからチラチラみえて目のやり場に困る。



「…………」


「…………」


「つまんない……あたしはとっくにあんたのこと好きなのに」


「…………へ?」


「つまんないなー」


「…………ナミ、おまえ…」



突然の爆弾発言に言葉がうまく出てこない。


パクパク口を動かす俺をみて可笑しそうに笑うナミの笑顔は最高に可愛かった。


「教えてあげる……あんたはね、あたしのこと、気になって気になってたまんないのよ……」

さっきの可愛い笑顔から突然またいつもの気の強い女に変わったかと思うと、

俺の胸ぐらを掴んでぐいっと顔を近づけた。


キスできそうな距離に胸の高鳴りがとまらなくて、この展開の早さについていけない頭をどうにか奮い立たせた。


「さっさと気づきなさいよ!2年も待たすなんてほんとバカね」


「うっせェよ……」



うっすらと目に涙を浮かべるその姿は、もういつもの魔女でも悪魔なんかでもない……


俺の愛した女だった。



ふわり、潮風が優しくナミの匂いを運んで来た時


たまらない気持ちになって、力加減も分からずに今度は真正面からナミを抱きしめた。



「ナミ……好きだ………もう俺だけを見てろ」


「…………バカね…………とっくに、あんたしか見えてないわよ」








一度気になり出したら止まらない性分だった。


この匂いも、柔らかさも、その笑顔も



一目焼き付いたら心をつかんで離さない。




そして腕の中で真っ赤になるこいつは、



魔女でも悪魔なんかでもない………





「悪魔の羽をつけた」







だれよりも、愛しい真っ白な天使。










「…………あーぁ、あいつらもう二人の世界だな、これは」
「そんなことより、だれかサンジを慰めてあげたら?」
「アォ!青春だな!おまえらー!」
「ヨホホホ、幸せですねー!サンジさん!私が歌ってあげましょう。聞いてください…」
「うっせー!この骨やろー!なんで俺のいない間にこうなってんだァァァァー!」
「……ふん、手だすんじゃねェぞ、グル眉」
「ムキーーー!」







Happy Birthday Zoro♪

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