過去拍手Novels

□シュガーソング
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歌が聞こえるわ…




どこかで聞き覚えのあるはずなのに、どうしても思い出せない。















眼が覚めたそこには見慣れた天井があった。


少し顔を動かすと枕元に見覚えのある時計、見覚えのあるシーツ、本、鏡……


あぁ、ここ…あたしの部屋か



昨日どうやって帰ってきたっけ、思い出そうとするけど頭が回らない、気持ち悪い…気持ち悪い…っ、



「………」



頭がガンガンして分からなかったこの状況も、もぞもぞと寝返りを打ってみたらそこには、あたしの部屋に普通はいるはずのない人物がベットに背を預けて座っていた。



「……、サン…ジくん…っ」

「………」


さっきからまったく動かないその背中には昨日彼が着ていた上着がかけられている。


寝ているのだろうか、あたしの呼びかけには応えない代わりに呼吸に合わせて揺れる髪。


喉が痛い……昨日呑みすぎたせいかしら。


頭も身体もどこかしこも痛みが走る。











珍しく平和な島に上陸したあたしたちは、夜の街にでて晩御飯をとることにした。


適当な店に入ると自然と宴モードになるのが鉄板で、知らず知らずのうちに他のお客まで巻き込んでいつものように盛大なものになった。


まぁ海軍が出入りしてないことが幸いだったわ。


どのくらい経ったか…気づいたらさっきまで隣にいてあたしのお酒を横取りしていたゾロも陽気に歌っていたウソップたちも向かい側で微笑んでいたロビンもいなくて、個室トイレの中で吐く自分のシュールな姿があった。



まさかこんなに呑みすぎるとは、ちょっとやそっとじゃ酔わないのに……きっとこうなったのは…






ドンドンドンっ



さっきまで優しく気遣ってノックされていた音が急に切羽詰まったように激しくなった。


あ……そういえばさっきからこの音も聞こえていたわ。


フラフラと立ち上がってなんとか扉を開けると、そのまま暖かい腕の中に引き寄せられた。


「……ナミさん、帰ろう」

「…ん、…」


こんなときでもあたしと同じ目線で話してくれる。

何も言わない、彼はいつもそうだ。こんなになるまで、こんな吐いてしまうまで一途に想って、何話そうとか、姿見ただけでとりあえず赤くなる顔隠すのに必死になってたりとか、告白して、やっぱり仲間にしか見えないごめんって言われてしまっても、サンジくんはずっと黙ってみているだけだった。


今日も、ずっと飲み続けていた私をチラチラと何回も様子見て、ついにつぶれてしまったらいきなりやってきてトイレに連れて行かれた。


大丈夫とかそんな言葉もなく、でもそのおかげでみんなにこの目に浮かぶ涙を見せてしまうという最悪の事態は免れた。彼は本当にいつもタイミングがいい。


「…水飲んで、楽になるから」

「……ん、」


そのまま手を取られて個室に逆戻り、口に含んだ水を吐き出さすあたしの背に優しく、暖かい手が触れた。


何度も、何度も、この手に救われてきた。


そのあまりの暖かさにじわりとまた目が熱くなった。


嗚咽交じりに泣き出したあたしがようやく落ち着いたころ、ちょっと待っててと行った彼の後ろ姿をみて、なんでこの人ここにいるんだろうと、ひどく冷静な自分もいた。


戻ってきたサンジくんは私におもむろに自分のパーカーを着せた。

「っ、ちょ…」

「…そんなに泣いて、まだここにいるとか言わないよね?」


珍しく強めの口調だったがその言葉の意味が分からないほどバカでもなかった私は、コクンとうなずいた。


「…か、える」

「……うん、帰ろう」


そういうとよいしょと私を立ち上がらせ、店の出口へ向かう。

途中で未だ盛り上がっているクルーたちに帰るわーと声をかけている。


え、と心配そうにこちらをみたウソップにフードから少し顔を出して笑ってみせた。

ちゃんと笑えたかは分からない。

ロビンやチョッパーも心配そうに声をかけてくるなか、あいつと目があった。

島の人々に囲まれていて、その隙間からふと見えたルフィに一瞬吐き気が戻りそうになった。


ばっと下を向くとじゃあといってぐいぐい手を引くサンジくんの後を静かについていった。






……困った顔、してた。


さっきみたルフィの表情が忘れられない。あの顔は、私が告白した時の顔と同じだった。



出会ったときからつかめないやつ。それでもルフィはあたしの唯一無二のヒーローだった。


ルフィにその想いを伝えたのはつい先週のこと、計画を練っていたわけでもなければ、ロマンチックな雰囲気になったわけでもない。


そして敢え無く玉砕、まあ、そうでしょうとも。わかってましたよ、わかってた。ルフィは私を仲間としか思っていない。そんなのずっと前から知っていたんだ。





「……ンジ、くん」

「…ん?」

「サンジ…くんっ、」

「はい…ナミさん」

「………」

「……ナミさん?」

「…っごめ…ん…ごめん」

「………」

「ごめんね…サンジくんっ…」


途端にまた襲ってきた嘔吐感につないでいた手を振り払おうとするも解けず、焦っていると静かに路地裏に連れて行ってくれた。










そして気が付いたら、自分の部屋で、自分のベットで寝ていて、目線の先にはサンジくんがいた。


さらり、伸ばした手で彼の金色の髪に触れた。細くて、綺麗だった。


サンジくんは私がルフィを好きなことにいち早く気が付いた人物で、唯一私の気持ちを知っている人でもある。


そして少しずつルフィの話をするたびにサンジくんの顔が曇るのも気が付いていた。ああ、きっとダメなんだろうな、と。でも抑えられなかった……ほんとバカだ。


好きだと言ったとき、ルフィは驚いていた。驚いて、少し困ったように眉を下げて、ごめんなと笑った。



そのあと何か言いかけたルフィの言葉を聞く勇気はあたしには到底なかった。

そのことをサンジ君に伝えると、ごめん、と言われた。


なんで彼が謝るのか意味が分からなくて、あたしは彼に声を荒げてしまった。







未だ一向に起きる気配のないサンジくんの匂いが鼻を掠めた。

ルフィとは違う、匂い。


ルフィじゃ…ないんだ。


あたしとサンジくんが帰ったの見てなんて思ったかな。


そんなこと、今でも、こんな時にでも考えるなんて…


「…さいてー、よね……」



熱く、じわじわと瞳から流れる涙……



瞳を閉じると、まだルフィの笑った顔が見えた。




「…謝らないといけないのは、こっちなのに」


そういって布団をかぶって丸くなると


「…っ」
「…」
「…いつ、から」
「…」
「…いつから、起きてたの?」
















「…ずっと、ずっと前からです」














布団の中で繋がれた手から彼の体温が流れ込む。



こんなにも熱い想いを、痛みを彼が溶かしてくれる。







あぁ、そういえば…あの詩…





失恋の曲だったかしら…




「シュガーソング」




恋の終わりは、恋の…








END

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