Novels 短編

□宣戦布告
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「ちぃ、俺の女になれよ!」




そう言っていつも爽やかな笑顔でとんでもない爆弾を落とすこの男を横目にコクリと持ってたお酒を飲んだ。



シュワシュワと口の中で弾けるそれが目の前で屈託のない笑顔を見せる彼のようで嫌でも意識してしまう。




「エース、それ聞くのもう75回目…」



いちいち数えてなんかいないが、おそらくその数字さえももうとっくに超えているだろう。


そのくらいエースという男はまるでサイクロンのように突然現れては



お決まりのようにどストレートな愛の告白をしてくるようになった。


今日もグランドラインを進むあたし達の船にこうやって出会う度に乗り込んできては



おそらく73回目の決め台詞を言い、



エースとの再開に嬉しそうなルフィの提案で始まったこの宴の最中も


ずっとあたしの傍を離れず目の前の料理を食べながらも


74回目、75回目…こうやって口説いてくる抜け目のない男。



「俺は、おまえが頷くまで何度だって言うぜ?」



そう言ってなんのためらいもなくあたしの肩に手を回し、ニカッと笑う彼に素っ気なく出来ないのは



きっとその天然さが居心地いいから。



「それとも他に…好きなやつでもいるのか?」


黙ってばかりのあたしを逃がさないとでも言うように、


こっちを見ろと言わんばかりに目の前に顔を近づけてくる。



「ちょ…っ!近いわよ!!」


「ははっ、おまえかわいー…」


なんだかとっても慣れてる手付きであたしの体を引き寄せたエースはすごく嬉しそうな顔をしている




こ…このプレイボーイ!!!


「なぁー…いないのか?好きなやつ」


相変わらず身体を抱き寄せられている体制が結構キツくなってきて


バランスが崩れるとともに、エースの腕の中にすっぽりと入ってしまった。


それをごく自然かのようにあたしを離そうとはしない彼の腕の熱さにクラリとしそうになる。



「なー、答えろよ…」

「そ、それは…」



チラリ、



好きな人と言われればいないこともない。


そのワードが出るといつも目で追ってしまう相手は一応いるんだが、



多分相手は気づいてなんかいなくて、



今日も宴の炊事に追われながらもナミの周りをうろちょろしながら鼻の下を伸ばしているのだから。



「んー?」


そうしていると、あたしの視線の先を探り当てるかのようにエースが目を凝らしたから慌てて否定するしかなかった。





「い、いないよ。そんな人…」



「そっか!じゃあ俺の女になれよ」



…ほんっと呆れるほどに彼はしつこいと言うべきか、一途と言うべきか…


好きな人はいないって言ったってことはエースにさえ気持ちは向いていないと言うことなのに、


そんなの気にしない彼の態度はあたしの心をかき乱すのに十分だった。



「な、なんでそうなるのよ。意味わかんなーい」


「おい。俺は真剣だぞ」


軽くあしらってエースからやっと離れたあたしの視界に、お酒を飲んでご機嫌のナミと



楽しそうに話すサンジくんの姿が映った。




あーあ、なにやってんのよ…


こうやって遠くから見ていることしか出来ない自分の女々しさが嫌になる。



ナミがサンジくんをなんとも思ってないことは日頃見てるからよく分かる。


サンジくんだってあたしにはいつも優しくて…



それゆえ、最近はあの無差別な優しさがちっとも嬉しくないしむしろ憎い。



「なぁ…どこ見てんだよ」



エースの熱い腕があたしの顔を反対側に向けようとしたとき、


いままでで一番近づいた彼に心臓のメーターは振り切りそうだった。



「…おまえ俺のことどう思ってんの?」



「…ど、どうって…」


しどろもどろになりながら、さりげなく離れようとするあたしの身体をしっかりエースの腕が捕まえる。



近い!熱い!……近いっ!



「嫌い?」


「…嫌いじゃないよ。でも…」



なんだろ…

今日はお酒のせいかすごく積極的な彼にすっかり動揺しきっているあたしは


逃れようにもそれを阻むたくましい腕とか熱い身体とか



自身たっぷりの言葉や愛おしそうな瞳を振り切ることができない。



「じゃあ、好きだろ?」



「え?」




「おまえ、俺のこと好きだろ?」



好きかと言われれば目で追う相手はいた。


どこにいたってなにしてたって嫌でも視界に入ってくる。


あの誰にでも対する優しさが胸にズキズキと傷跡をつける。



認めたくなかったけど、彼はあたしのことなんてなんとも思っていない。


そう実感するとこのやりきれない想いは目の前の男に向けるしかなくて


いくらでもあしらえるのに、もう逃げるつもりもなくて



まだ遠くで給仕に追われるサンジくんのことを目の端で捉えようとしたとき


「俺は、あいつと違ってお前だけを想う」


その言葉にいつから気づいていたんだろうという疑問さえ浮かんだが


言葉の前に涙が流れたから、それを拭ってくれた彼は掠れた声で迫ってくる。




「…ちぃ、目瞑って…」


「……っ、エース…」


そう言って近づいてきたエースの顔はお酒のせいなのか少し赤く染まっていて


彼の真剣な気持ちに初めて気づいたときには


もう吐息が交わるほどの距離まで迫っていた。






「てめェ、その辺にしとくんだな…」
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