Novels 短編

□餞の詩
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あれからどのくらい時がたったんだろう




……俺は………今も





君に会いたい





「 餞の詩」







「それにしても、ウソップが結婚とはなァ」

「いや〜、お陰様で式の準備も順調に進んでるぜ〜」


久しぶりに集まった顔ぶれにテンションは上がり、更にウソップが長年付き合ってる彼女との結婚というなんともめでたい話に酒がいつも以上に進む。



俺たちは高校の時からのダチで、社会人になった今もこうやって皆で会ってはバカ騒ぎしている。


今日会うのは前回の集まりから半年ぶりくれェだ。


「あんな可愛くて素敵な才女がおまえの奥さんだなんてなァ」

「おい、ひでェな!」

俺の意地悪な発言に、すかさずウソップが突っ込む。


「シシシ、ウソップおめでとう!俺は嬉しいぞ!」

「ルフィ〜、ありがとうよ。そう言ってもらえると俺は涙が出るぜ」

「よし!肉食おう!肉ー!今夜はウソップの奢りだァ!」

「そらァいい、酒もどんどん頼もうぜ」

「うぉい!勝手に決めんなー!」

お前はさっきまで寝てただろ!とウソップがゾロに詰め寄っても騒ぎは大きくなるばかり。

集まれば、所構わずうるさいのは昔から変わらねェ。


懐かしいやり取りに心が暖かくなっていく。
仲良い友達の幸せとは嬉しいものだな。



「あ!ところでさ、ゾロはどうなんだナミさんと!」

「あ?どうってなんだよ」

「あァ?だーかーら、順調に仲良くやってんのかってことだろ!いちいち言わせんなッ!」


「んなことテメェに心配される筋合いねぇんだよッ」

「んだと?このマリモ!」

「やんのかダーツ眉毛!」



話せばすぐに喧嘩になっちまう俺とゾロの関係も変わらずだ。


そしていつもみたいにウソップがオロオロして止めに入って、


ルフィは笑いながら、「本当仲良いなおめぇらー」なんて言ってんだよな。



「あ、……でも俺も気になってたぞ。ゾロたちも結構長いだろ?先のこととか考えているのか?」


「………まァな、」



おおおー!
意外な答えにその場が盛り上がる。


「………ただ、あっちはまだ学生だし。今年で大学四年になんだけどよ、院の方に進みたいって言ってっし……まだ先の話だな」


いつになく真剣に話すゾロに、俺たちは釘付けになる。


「まぁ今言えるのは………俺には……あいつしかいねェってことだ」



ぎゃーーーー!


ゾロの歯が浮いちまいそうなセリフに俺たちのテンションは頂点に。


「よっ!ゾロくん!おっとこまえ〜」


「シシシ!ゾロ!ナミ泣かしたら俺が許さねぇからな!」


「くそマリモ!!ナミさん幸せにしねェと俺がゆるさん!」


「だーかーら!なんでテメェに許可して貰わんといけねぇんだ!」


ギャーギャーとまたいつものやり取りが始まる。


俺は分かってんだ……お前のくそ真面目なとこをよ。

こいつなら必ずナミさんを幸せにするだろう。


うん。今日は本当に酒が進む。
俺はゆるむ頬を隠すように、グラスに残ってた酒を一気に流し込んだ。



そろそろお開きにするか。と、二次会の店を出たのは夜中の12時を回っていた。


居酒屋の暖簾を上げて外に出ると、まだ街は賑やかで、当たり前のようにネオンが光る。


空には星なんか一つも見えなくて、風の匂いはもう初夏のものに変わっていた。



駅まで向かう途中ゾロが隣に来て思わぬことを話し出した。



「そう、いえばよ……」


「なんだ?」


「この前………ちぃに会った」



「……ぇ、」



久しぶりに聞いた名前に動揺が隠せない。


「二週間ほど前にナミと待ち合わせしている時に駅前ですれ違ったんだ………俺の方から声かけて……」


「……元気…そう、だったか?」


「ああ。今は地元に帰って家の手伝いしてるそうだ……昔となにも変わってなかった」


「そう、か…」




………ちぃちゃん

俺たちは付き合ってた。

すげぇ大事で。

ずっと一緒だと思って……



あの日からどれだけ月日がたっただろうか。




「なぁお前…まだあいつのこと…「おおおーい!サンジぃ!飯ぃ!飯が食いてぇ!」


かなり前の方を歩いてるルフィがウソップと肩を組みながら、こちらに手を振っている。

「あぁ?さっき食っただろがぁ!」



ったく…しょうがねぇやつらだ。


「おい。こういうのは、フェアじゃねぇ……」

さっき言いかけた言葉は愚問だと思ったのか、ゾロは話を始めた。


「…………」

「伝えようか迷ったんだ。ウソップもナミも、聞いた時は止めて来たよ。だがな、俺がお前の立場なら、なにも知らねぇなんて……辛すぎる」

だからか、さっきからウソップがこっちを心配そうに伺っている。


嫌な予感を振り払うかのように、俺はゾロの眼をまっすぐ見た。


「…なんだよ。勿体ぶらずに言えよ。」



「いいか……ちぃはな…」





カサリ








靴が踏みしめる草の音と



近くの踏切の音が俺の耳に響いていた。
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