black and white 本編
□06.子守唄を聞かせて
1ページ/4ページ
「ララ・・・ずっと傍にいてくれ。そして私が死ぬとき、私の手でお前を壊させてくれ・・・」
「はい、グゾル。ララはグゾルのお人形だもの」
逃げ出した2つの影―――ララとグゾルが、互いの存在を確かめ合うかのように抱き合っている。
丁度その時、ゆめらが2人の元まで辿り着いた。
「!」
2人の姿に目を留めて、慌ててコソコソと物陰に息を潜めた。
「女の子の方が人形だったんですね・・・」
「うん、そうみたいだね」
「! 何なの、あなたたち・・・!」
極力声を抑えていたつもりだったが、どうやらララには聞こえてしまったようだ。
敵意を顕にするララに、アレンが慌てて口を開いた。
「あっ、ごめんなさい!立ち聞きするつもりはなかったんですけど・・・。キミが人形だったんですね」
人形、という言葉にララがピクリと反応する。
「げ!アレンくん、それは禁句・・・!」
ゴゴゴゴゴ・・・ ドンッ!
ゆめはアレンに慌ててそう言ったが時すでに遅し、ララは石柱を持ち上げて、こちらに投げつけてくる。
「き、禁句って・・・ゆめ、それもっと早く言ってくださいよぉ!」
石柱を何とか交わしながら言うアレンに、てへっと軽く舌を出した。
そんなことをしている間にも、石柱はビュンビュンとこちらに向かって飛んでくる。
「聞いてくれそうにないな」
アレンはそう呟いてから、イノセンスを発動させた。
「それっ」
左腕で石柱を受け止め、投げ返す。
その石柱はララの後ろにある石柱を砕いていった。
「もう投げるものはないですよ。お願いします、何か事情があるなら教えてください。可愛いコ相手に戦えませんよ」
「アレンくんのタラ紳士!」
「た、たらし・・・!?」
ぼそっとそう呟いたゆめに、アレンが聞き捨てならないというような反応を示すが黙殺する。
それから改めてララに向き直った。
「それじゃあ、話してくれる?」
その言葉にそっと頷くララ。
「話は僕が聞きますから、ゆめは神田達をお願いします」
そう言ったアレンにしっかりと頷いてから、神田とトマの治療を開始した。
「グゾルはもうじき死んでしまうの」
ぽつぽつとグゾルとの想い出を語り始めるララ。
それを真剣な表情で聞くアレン。
ゆめはその隣で神田の怪我の状況を確認する。
右上から左下に大きく切り裂かれたような痕があるが、血は既に止まりかけている。
(さすが神田の自然治癒能力・・・)
重症にも関わらず既に治りかけていることに感心しながら、ウエストポーチから塗り薬を取り出してそっと塗る。
それからゆっくりと包帯を巻き付けた。
トマの方も決して軽症とは言えないものの、今から手当てすれば大丈夫だろう。
神田のときと同じように、薬を塗ってから包帯を巻き付けた。
(後は回復を待つのみ・・・)
暫く安静にしていれば目を覚ますだろう。
ゆめはほっと安堵の溜め息を漏らしてから、アレン達の方に意識を向けた。
「最後まで一緒にいさせて・・・最後まで、人形として動かせて!」
そう訴えるララの表情は真剣そのものだ。
ララの願い、それは『グゾルの人形として彼の最期を見届ける』ということ。
「ダメだ」
突如そんな声が聞こえてはっと声のする方を向くと、いつの間に気が付いたのか神田が体を起こしながら鋭い眼差しを向けていた。
「神田・・・」
「その老人が死ぬまで待てだと?この状況でそんな願いは聞いてられない」
神田の言いたいことはわかる。
しかし、ララのひたむきな想いにこみ上げてくるものがあるのも事実だ。
どちらが正解なのか、それはゆめには判断できなかった。
その為ゆめは、口を出さずに傍観者を決め込むことにした。
「俺たちはイノセンスを守る為にここに来たんだ!今すぐその人形の心臓を取れ!!」
神田の怒鳴り声に目を覚ましたトマに、ゆめはほっと安堵した。
「・・・取れません。ごめん、僕は取りたくない」
バシッ
その刹那、寝かせる為に頭に敷いていたコートを神田がアレンに向かって投げ付けた。
「その団服は怪我人の枕にするもんじゃねぇんだよ!!エクソシストが着るものだ!」
アレンが投げられて地面に落ちた団服をゆっくりと拾い上げた。
「犠牲があるから救いがあんだよ、新人」
神田はそう言ってから六幻を手に、ララの元へ近付いてゆく。
神田が発したその言葉は、アレンだけでなくゆめにも言っているように聞こえて、胸の奥がちくりと痛んだ。
「・・・じゃあ、僕がなりますよ」
再び団服に袖を通してから、アレンが言った。
「僕がこの2人の犠牲≠ノなればいいですか?今、この人形からイノセンスは取りません。僕が、アクマを破壊すれば問題ないでしょう?」
刀を向ける神田の前に、ララとグゾルを庇うようにしてアレンが立ち塞がる。
「犠牲ばかりで勝つ戦争なんて、虚しいだけですよ!!」
その瞬間、神田がアレンの顔を思い切り殴った。
「とんだ甘さだな、おい・・・。可哀想なら他人の為に自分を切り売りにするってか・・・?テメェに大事なものは無いのかよ!!」
神田の言葉に、アレンが哀しげに口を開いた。
「・・・大事なものは、昔失くした。可哀想とかそんな綺麗な理由あんま持ってないよ。自分がただそういうとこ見たくないだけ。それだけだ」
アレンは更に続けた。
「僕はちっぽけな人間だから、大きな世界より目の前のものに心が向く。切り捨てられません」
アレンの言葉が、脳内に反響する。
「守れるなら守りたい!」
はっきりとそう言い放った彼は、いつになく輝いて見えた。