black and white 本編


□05.土翁と空夜のアリア
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一方、その頃神田達は――――――


「お前が見たアクマの情報を見せてくれ、ティム」

ティム―――正確にはティムキャンピーだが―――と呼ばれた黄色のゴーレムが、ガアアアッと口を開いて映像を映し出す。

「・・・鏡のようだ」
「はい?」

映し出されたアクマの姿を見てそう呟いた神田に、トマが聞き返す。

「逆さまなんだよ、このアクマ・・・。見てみろ、奴がモヤシに化けた時の姿・・・。服とか武器とか・・・左右逆になってる」

「モヤシ?」
「あいつのことだ」

神田とトマが真剣に先程のアクマを分析している隙を見計らって、2つの影はこっそりと逃げ出した。

「(行くよ、グゾル・・・)」
「(ああ・・・)」

「!! ふたりがいない!!に゙っ、逃げやがった!!!くそ、あいつらどこに・・・っ」
「!! 神田殿後ろ・・・」


――――――・・・・・・


「あのー・・・アレンくん?」
「・・・なんですか?ゆめ」
「もしかして、迷ってたり・・・する?」

先程から歩けど歩けど、一向に地下から脱出できない。

「ゔっ」

ゆめの核心を突いた一言に、言葉に詰まるアレン。

(早く神田の所に行かないといけないのに・・・)

「あああ〜迷っちゃった迷っちゃったああ〜」
「だ、大丈夫ですって!・・・ね、落ち着いて?」

うおお、と頭を抱えて唸るゆめにアレンがそう言って微笑む。

(アレンくんのせいでしょー・・・)

心の中でそう思いながらじとーっとアレンを見てみるが、やっぱり紳士スマイルには敵わない。

「よしわかった。わたしが先頭行く」
「ええ!?ゆめがですか・・・」
「アレン・ウォーカーさん、何か異議でも?」
「・・・異議なし、です」

辺りをゆっくりと見回しながら前を歩くゆめを、アレンは不思議な思いで見つめた。

(イノセンスを発動した時の、ゆめのあの感じ・・・)

普段は日本人特有の漆黒の瞳が、銀灰に変わる瞬間。
いつもとは違うその鋭い眼差しから、確かな意思を感じた。
あの時のゆめは、明らかに取り巻く雰囲気が違っていた。

「? どうかしたの?」

その声にふっと我に帰ると、ゆめが不思議そうに覗き込んでいた。

(ち、近い・・・っ!)

目の前に広がる鮮やかなベビーブルー。
今にも吸い込まれてしまいそうな大きな漆黒の瞳・・・。

アレンは、自分の顔が赤くなるのが分かった。

(な、なんだ、この気持ち・・・?)

「何、さっき頭でも打っちゃった?」
「だ、大丈夫ですから!それよりほら、早く行きましょう!!!」

冗談交じりに笑いながら言うゆめに、何とかそう答える。
ゆめはまだ何か言いたげだったが、それ以上は言わずにまた歩き出した。

そんなゆめに、アレンはホッと胸を撫で下ろした。
あのまま見つめられ続けていれば、心臓が飛び出てしまっていただろうと半ば本気で思う。

(そっか。この感情はきっと・・・、)

「あ!もしかしてこれ、神田の声じゃない?」

アレンのその考えは、答えを出す前にゆめによって遮られた。
確かに耳を澄ませてみれば、神田らしき声が聞こえる。

(・・・答えを出すのは、後ででいいか)

今はそれどころではない、任務が先だ。
アレンは全ての雑念を取り払うように、ふるりと小さくかぶりを振った。


――――――・・・・・・


「・・・カ・・・カ・・・ンダァ・・・」

トマの怯えたような声に神田が後ろを振り返ると、アレンがひとりで立っていた。

「さ、左右逆・・・っ」

トマのその言葉を合図に、神田はイノセンスを発動させる。

「どうやら、とんだ馬鹿のようだな」
「カ・・・ン・・・ダ、ド・・・ノ」

「・・・災厄招来!界蟲一幻!! 無に還れ!」

バンッ! ジュウウウゥゥゥゥ

神田の攻撃が命中する前に、本物のアレンがイノセンスでそれを制した。

「ウォ、ウォーカー殿・・・」
「キミは・・・?」

「モヤシ!!どういうつもりだテメェ・・・!!何でアクマを庇いやがった!!!」
「神田・・・」

「神田違うの、そこのトマさんがアクマなの!」
「・・・ゆめ、お前何言って・・・、」

神田が言い終わる前に、偽のトマが神田を殴り飛ばした。
その衝撃で六幻が手から離れて床を滑り、発動が解除された。

「私の皮膚は写し紙。まんまと殺られたな、お前」

本性を現したアクマが、神田を壁に押し付けながら片手で吊り上げる。

「・・・はっ!」

アレンと同じ性能を持つ左腕で神田に攻撃を加えるが、神田はまだ倒れない。

「ケケケケケケケ。・・・アレ?死ねよ」

「死ぬかよ・・・。俺は・・・あの人を見つけるまで死ぬワケにはいかねぇんだよ」

俺は――――――、そこで神田は意識を失った。

「ギャヒャヒャヒャヒャ、すげーー、立ちながら死んだぞ!」

下卑た笑い声を響かせるアクマ。

「イノセンス発動!――――――夢ノ銃(dreaming gun)」

ドドドドドドッ

ゆめは素早くイノセンスを発動させ、アクマに攻撃を仕掛けた。

「ギャヒャヒャ、逃げるが勝ちだ!」

アクマはそう言って弾丸を交しながら、足早に逃げていった。

「という訳でアレンくん」
「は、はい!」

急にくるりと振り返ったゆめに、アレンが慌てて返事する。

「アクマが戻って来ない内に、さっさとここを離れよう」
「そうですね」
「じゃあ、アレンくんはトマさんをお願い」
「ええ、大丈夫ですけど・・・神田は?」

トマを担ぎながらアレンがそう質問したが、その答えはすぐにわかった。

「――――――夢ノ操作(dreaming operate)」

ゆめがO≠ニ刺青の入った中指に軽くキスを落とす。
それから左手のピントを神田に合わせた。
ふわりと神田の身体が浮く。

(この技、最初に僕を助けてくれた時の・・・)

アレンは初めて教団に来たときに、この技に救われたことがある。
その時は確か、神田の対アクマ武器である六幻を操作していた。

(つまりなんでも操れるってことかな・・・)

「すごいですね、夢ノ操作って」

アレンが素直に感想を述べると、ゆめは少し照れたように笑った。
それにつられてアレンも微笑んでから言った。

「さあ、行きましょう!」

その言葉に、 ゆめもしっかりと頷いて歩き出した。


――――――・・・


「歌・・・?」

暫く歩いてから、アレンがそう呟いてから足を止めた。
どこからか美しい歌声が響いてくる。

(ララ・・・)

早く、早く イノセンス―――ララとグゾルの元に行かなくてはならない。
ゆめは一層その気持ちを強くした。

「もうすぐだよ。行こう、アレンくん」
「・・・はい!」

歌声に引き寄せられるかのように、ゆめ達は足を進めた。


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