black and white 本編


□04.マテールの亡霊
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「あの、ちょっとひとつわかんないことがあるんですけど・・・」

耳元で煩く唸る風に負けじと声を張り上げて、アレンが言う。

「それより今は汽車だ!!」

そんなアレンに、神田が叫び返す。

ゆめ達は今、汽車に乗るべくひたすら走っている。
最早、車と競争できるのではないかというくらいの速さだ。

乗り遅れないように走るというのは普通のことだが、ここは地上ではなく建物の上。
決して一般人に真似できることではない。

「お急ぎください。汽車が参りました」
「でええっ!?これに乗るんですか?」

ゆめの隣を走る探索部隊(ファインダー)の言葉にアレンが目を丸くする。

(驚くのも無理ないよねー・・・)

そう思いながら下を見下ろせば、騒音をたてて汽車が走って来るのが見えた。
汽車が段々と真下に迫ってくる。
それを確認して、ゆめは覚悟を決めた。
そして、鉄の柱から足を離す。

ダンッ

4人はそんな大きな音を立てて、汽車の上へと着地した。

「飛び降り乗車・・・」
「いつものことでございます」

アレンのげんなりとした呟きに、探索部隊がそう返す。

「・・・げふっ」

その隣で軽く嗚咽を漏らしているのはゆめ。
そんなゆめに神田が呆れ顔で言う。

「お、おい・・・またかよ」
「だ、だってぇ・・・うぷ」
「ったく、毎回毎回・・・」

(飛び乗りだけは何回やっても慣れない・・・)

ゆめ曰く、飛び乗った瞬間のくらりとする感覚で、どうしても気持ち悪くなるのだそうだ。

初めてこれをやった時、こんなものでは済まなかった。
何せ、あの神田が肩を貸してくれた程だったという。

それに比べてへたり込まずに自力で歩けるだけ、随分成長したとゆめは思う。

「ここから降りるぞ」

神田の声にそちらを向けば、探索部隊、神田、アレンの順番で、屋根から車内に降りてゆくのが見えた。
ゆめもそれに続いて、ぴょんと飛び降りる。

「困ります、お客様!」

そこへ、困り顔の乗務員らしき男性が駆けてきた。

「こちらは上級車両でございまして、一般のお客様は二等車両の方に・・・ていうかそんな所から・・・」

屋根から乗り込まれれば、困って当然である。
ゆめはこの度に申し訳なさに萎縮する。

「黒の教団です。一室用意してください」
「!黒の・・・!?か、かしこまりました!」

探索部隊の言葉に、乗務員の目がゆめ達の胸元にあるローズクロスを捉えた。
途端、先程とは態度を一変して、慌ててどこかへ駆けていった。

「何です、今の?」

それを見ていたアレンが、そんな疑問を口にする。

「あなた方の胸にあるローズクロスは、ヴァチカンの名において、あらゆる場所の入場が認められているのでございます」
「へぇ・・・」

探索部隊の説明に、胸元のローズクロスを見つめながら感心したような声を出すアレン。

「ところで、私は今回マテールまでお供する探索部隊のトマ。ヨロシクお願いいたします」
「ゆめと言います。此方こそ宜しくお願いします」
「僕はアレンです。お願いします」

無線機を背負い直しながら、探索部隊のトマが自己紹介をする。
それに続いてゆめらも自己紹介を返した。
もちろん神田は一瞥するのみだ。

「あの、お部屋のご用意ができました!」

先程の乗務員がびくびくしながら声を掛けてきた。
きっと、ここまで偉い人の対応に慣れていないのだろう。
その様子に、ゆめは申し訳なさを募らせる。

そんな乗務員に案内されて、とある一室に入った。
トマは「ただの探索部隊ですから・・・」と見張りも兼ねて室外で待機する。

ゆめは椅子に腰掛け、やっと一息つく。

(乗車時刻くらい守ろうよ、黒の教団・・・)

心の中で軽く毒づきながら、手渡されていた資料に目を通す。

因みに書かれてある文章は全て英語だが、トリップ特典か何かだろう、ゆめには英語が話せるし、読むことも容易い。
初めは自分は日本語を話しているものと思っていたくらいである。
今ではもう英語が母国語なのではないかと思えてくる程だ。
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