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□眠るきみに秘密の愛を
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リビングには何やら複雑な式が所狭し書かれている紙がいくつも積み重なっていて、今にも雪崩が起きそうな状態だ。
そんな中、時計のチクタクという秒針の音に混じりパソコンをパチパチと鳴らす音が時折混じる。

「ふう・・・」
パソコンを鳴らす音が消える。
行き詰った、と華はため息をついた。
資料とにらめっこしていた目を離すと目がチカチカする。
もうすっかり冷え切ったコーヒーを口に含むと苦みが口全体に広がった。
(何時だろ・・・)
時計を見ると午後2時、少し前に見た時は午前1時位だったハズだ。
よほど作業に没頭していたのだろう、時間間隔がおかしくなっている。
ここ最近の華は闇鬼の相手をしたり、オモテの自宅で大学の研究を進めたりと眠れない日々が続いていた。
こういう時、常ならば華の身を案じてくる破も連日ホストの仕事で華の傍を離れている。
このままだと仕事に支障をきたすかもしれない。
仮眠でもとるかな、と眼鏡を外しごろんとソファに横になると、溜まっていた疲れがどっと押し寄せてきた
気がした。




(そういえば)
疲労でぼんやりとする頭のまま華は思う。
(我が皇子は、何してるのかな)
たった数日会ってないだけなのに。
会いたい、なんておかしいかな。
いつもの様に学校に行って、甘雨に絡まれて、それを見た主神言殿がキレて、主神言殿の様子に忠誠を誓う
後鬼瑞宮殿が我が皇子にキレて。
(あっ・・・キレた後鬼瑞宮殿が闇鬼を我が皇子に差し向けた。頑張って、我が皇子)
「ギャー!」と悲鳴を上げる我が皇子の様子が容易に想像出来て、苦笑いを浮かべる。
甘雨も、後鬼瑞宮殿も、主神言殿も。
当たり前の様に隣に居られるなんて、

(羨ましいなぁ)

・・・ん?ぱちくり、と目を瞬かせる。
思わず、何が何だか分からないといった様な顔をしてしまう。
何を考えているんだろう、いつもならこんな事思わないのに。
自分で思っていたよりも疲れが溜まっているらしい。
早く寝てしまおう、と目を閉じようとすると、徐々にだが睡魔が襲ってくる。
(あー、やっと眠れそう)
そしてそのまま意識を手放して、ゆっくりと眠りにつく筈だった。


そう。筈だった、のだ。


ピンポーンと軽快な音が来客の旨を告げる。
いったい誰だろうか、宅配?回覧板?
まあいいか、それよりも早く眠りにつきたい。
居留守をきめこんで、眠りにつこうと再び目を閉じると。

ガチャリ、

・・・ん?

玄関の扉が開く音がした。

まさか破?・・・ではないか。
鍵を持っている為、わざわざインターホンを押す必要がないだろう。
即座に自分の考えを否定する。
では一体誰だろうか。
気配を探ってみるとそれは極慣れ親しんだ人物のもので。
あ・・・れ・・・?

(我が、皇子?)
いやいやいや、いくらなんでも都合良すぎだろう自分。
確かに数分前に少し、ほんの少しだけ会いたいとか思ったかもしれないけれども!
今日は我が皇子が来る予定もないし。
「・・・おじゃましまーす」
控えめにかけられた声にハッとする。
睡魔に支配されていた頭がめまぐるしい勢いで覚醒してくる。
(我が皇子!)
バッと瞬時に部屋の状況を確認する。
床は研究に使う参考文献などでぐちゃぐちゃになっている。
何だこの汚い部屋は!と自分の事を棚に上げて華は内心悲鳴を上げた。
(こんなに資料が散らばってて、踏んだりしたらどうするんだ。怪我するだろう。
今すぐ片づけなきゃ!・・・ってそんな暇ない!そんな事してたらバレるだろ僕!!)
この間僅か0、5秒。
一人ツッコミをかましつつ、どうしようかとオロオロしている内にどんどん気配が近づいてきて、
あー、僕絶対疲れてる・・・と華はひとりごちた。
結局の所、「寝たふりでもしておけばなんとかなるだろう!」と半ばやけっぱちの思いでソファに顔を埋める。
「華ー?」
焦る華の心情とは逆に、無情にもリビングのドアがキィと音をたてて開けられる。
「んー、破に頼まれて来たはいいんだけど・・・」
少し困った様子でウロウロと辺りを見回している(気配がする)。
(というか原因は破か)
もしかして連日家を空けていたのも、ホストの仕事だけではないのかもしれない。
「うおっ、こんな所にも資料がっ」と悪戦苦闘している后を尻目に、
帰ってきたら何て言ってやろうか、と心の中で破に悪態をついた。



「はー・・・よく寝てんなぁ」
じっと見つめられている気配がして居心地が悪い。
そんなに顔を寄せないで、ドキドキするから。などと思ってしまうのは不可抗力だろう。
やっぱり疲れてたんだな、と瞼にかかった髪を軽く払われた。
「こうして見ると。本当に人形みたいだな・・・あ、クマ出来てる。」
そっと目の下のクマをなぞられる。
突然の事に驚いて、ピクリ、と反応してしまった。
「っと」
そんな華の様子に、弾かれたように手が離れる。
「・・・危ない危ない」
華が起きる気配がないことを確認して、ほっと胸を撫でおろしている。
実は起きてました、なんて言えるはずもなく、華の心臓が休まることはない。
「疲れてるんだよな・・・ありがと、華がいてくれるおかげでいつも助かってる」
いつもは聞けない言葉にクスリと笑みが零れそうになる。
(ああ、もう。そんな所が)





「好きだなぁ、なんて」

ポツリと、だが確実に投下された言葉。

(あっぶな・・・!)
自分の声かと思った。いや、違くて、そんなことより。
「・・・って、何言ってるんだ俺」
爆弾発言をした当の本人はというと。
照れ臭そうに一笑すると、「腹出して寝ると風邪ひくぞー」とトンチンカンな言葉と共に
ブランケットをかけて、何事もなかったかの様に去っていった。






会いたいなー、って思ってたら我が皇子がきて。
(あー、やっぱ夢なのかな・・・)
なんて予想も、自分にかかっているブランケットが大きく裏切っている。
『・・・だなぁ、なんて』
「何なんだよ」
どんな顔で言ったんだろう、どんな気持ちで、その、言葉を。
・・・すきって。
口に出すのは恥ずかしすぎて、その二文字は華の口に押しとどめられた。
すき、すき。
言葉を頭の中で反芻すると、ぷしゅ。と頭のどこかがショートした気がした。
いつもは冷静だとか、頭脳明晰だとかもて囃されている頭もこんな時に限って働いてくれない。
赤くなってしまった顔を隠す様に、ブランケットを顔を埋めると、太陽の様なあったかい香りがする。
それがまたあの子を連想させてしまい、余計に頬が熱くなった。



無防備なきみに「 」をする。


2、眠るきみに秘密の愛を

(何だったんだ、今の・・・!)

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