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□クラリ、甘い眩暈
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2月14日バレンタイン。

乙女の聖戦と言えば聞こえはいいが、
要は戦争である。



「あ゛ー・・・」

家に入った途端にどっかりと玄関に座りこむ。

(散々な目に遭った・・・)

紙袋の中には溢れんばかりのチョコが入っている。

今日はバレンタインなのだが自分に近づいてくる女子は揃いも揃って、
『天神!あのイケメンはんらに渡しおいて!!』である。

おかげで女子からはお駄賃の義理チョコ、男子からは憐みの視線を嫌というほど頂いた。

(チョコを貰ったはずなのに、なんでこんなに悲しい気分にならなくちゃいけないんだ・・・)

「クッ・・・!イケメン集団め・・・!」

グッと拳を握って悔しがっていると、

「お疲れ様です、我が皇子」と聞き慣れた声が。

「出たな・・・!イケメン1号、2号・・・!」

声をかけてきた破と華に反射的にファイティングポーズをとって恨みのこもった視線を浴びせると、二人共顔を見合わせてキョトンとした顔をする。

そんな顔も絵になっているなんて、やはり世の中は不平等だ。

「どうせ俺はモテねーよ」ふて腐れた様に呟いて、チョコが詰まっている紙袋を二人に差し出す。

「これ、二人にだって」

その瞬間、先程まで不思議そうにしていた二人がピシリと固まる。

「あ、あーうん、ありがとう・・・そうだよね、それでその・・・チョコ、なんだけど、さ」

急にどもりだした華に訝しげな顔をしつつも「何だよ」と先の言葉をせかす。

「あの、これ・・・」

おずおずと差し出されたのは、赤い包装紙に金色のリボンのラッピングが綺麗に施されている一つの箱だった。

「これ、どう見ても手作りだろ。華が貰ったんじゃないのかよ」

せっかく女子が華に贈った物だ。

いくら羨ましくてもそれは受け取れない。
いいよ、と押し返すと「別にこれは貰い物じゃないから」と予想外の返答が返ってきて、
再度箱を押し付けられる。

「え、違うの?華の手作り?」

「・・・まあ、そうだね」

受け取った箱をまじまじと見ると何故か華がてチラチラとこちらの様子を伺ってくる。

「・・・あ!もしかして好きな人がいるけど、渡し損ねたとか?」

「違っ、僕はっ・・・!」

「ま、そんな訳ないかー、うーん、じゃあこの手作りは・・・」

趣味?・・・いや、それもないだろう、じゃあ一体何のために?

色々と考えてみるが、答えは思い浮かばない。

「うーん、分かんない、なあはなや、」

「だから!僕は我が皇子のことが好きなんだってば!!」



ぎ、と言おうと瞬間、声が遮られる。

びっくりして華を見ると、顔を真っ赤にして口元を覆っている。

「・・・えっと、その、大丈夫?・・・うわっ」

恐る恐る手を伸ばすと、そのまま手首を掴まれて引き寄せられる。

「おおおおおお!?分かったから、ひとまず落ち着こう!?なっ!?」

「・・・・・・い」

「え?」

「分かってない。本気なんだ」

真剣な表情に、ヒュッと息を呑む。

「ねえ、早く気づいてよ。我が皇子」

そのまま顔がどんどんが近づいてくる・・・が。

グイ、と今度は反対方向から引き寄せられ、そのまま抱きしめられる。

「やり過ぎですよ、華」

「・・・破」

破に頭ごと抱きしめられていて身動きが出来ないため二人の表情は見えないが何やら険悪そうだ。

そのまま数秒の間沈黙が続き、やがて華がハァ、と短く溜息を吐く。

そして「ゴメン、我が皇子。僕は公務があるから」と言って瞬間移動で消えてしまった。





「えっと、ありがとう、破」

「いえ」

「・・・それで、いつまでこの体制?」

「すいません、あと少しだけ」

遠まわしに恥ずかしいから離して欲しいという意図を伝えようと試みるが、失敗に終わる。

「華のことが気になりますか?」

流石にあんな事をされて全く気にならないハズがないだろう、「あ、あーまあ、うん・・・」
と言葉を濁していると、微かにだが抱きしめられる力が強くなる。

「・・・実は私もお慕いしている方がいるのですが、中々気づいて貰えないんです」

「へ、へぇ、そうなんだ」

「そんな所も大変可愛らしいのですが・・・」

名残惜しそうに抱きしめていた腕をほどかれると、ようやく破の表情が見える。

「愛しています」

「!?」

「と言ったら、私も少しは意識して頂けるのでしょうか」

どこまでも優しい瞳は、自分だけを見つめていて。

ドキリとしてしまう。

「良かったら食べて下さい、我が皇子用に甘さ控えめですので」

そう言って渡されたのは緑色の包装紙に金色のリボンの、これまた手作りだと一目で分かるような物だ。

「早く気づいて下さい、我が皇子」

耳元で囁くと、「失礼します」と瞬間移動で消えた。




「ーっ」

破が瞬間移動で消えた途端、ズルズルとその場に座り込む。

先程の二人の言葉がぐるぐると頭の中を駆け上がる。

熱を孕んだ瞳は自分だけを見ていて。






『早く気づきなよ、我が皇子』

『早く気づいて下さい、我が皇子』

(あんな二人、見たことない)


チョコレートの甘い香りにクラリ、眩暈がした。

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