黒バス二次創作

□花火
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「なぁ伊月」
「んー?」
「今年祭り、行く?」
「…行ってくれんの?」
「え、なんで」
「俺なんかと行ってくれんの?だって日向他にいっぱい友達いんじゃん」
「伊月だって、女の子に誘われただろ?」
「まぁ」
「ムカつくなお前!」
「本当に俺なんかと行って、楽しい?」
「楽しいに決まってんじゃん。俺は伊月と行きたいの」
「なにそれ」

ぷぷ、と笑う。

夏休みは、伊月とよく会っていた。
まぁ前からよく会ってたけど。てか軽く住んでたけど。

「二人で?」
「だっていつも俺ら二人で行ってたじゃん」
「まぁな」

昔から近所の神社でいつも8月の最後にやっている祭り。30日とか31日とか。
学生たちにとって、最後のはしゃげる場所だ。
勿論毎年すんごい盛り上がる。

「小2のときだっけ。日向がはぐれてさ」
「お前それ言うなよ!!」
「いいじゃん。あの時は可愛かったのになー」
「お前なんか可愛すぎて変な奴らに声かけられまくってたじゃん」
「お前それ言う?」
「ごめんなさい」

いいじゃん、別に。
今こうやって一緒にいられてるんだし。
とは言えなかった。

そんなの言葉にしてしまったら、伊月がどこかに飛んでいってしまいそうで怖い。
俺は馬鹿か。女みたいな脳味噌してんな。

もちろんあいつはそんなこと知らずに、鼻唄を歌いながら今月の月バスをページをめくる。

「今年、明後日だってね。明後日に漁って!」
「つーことは31日?」
「うん。あ、部活あるよね?」
「じゃ、終わったらそのまま行くか」
「それがいいな。俺すももあめ食べたいなー」
「すももあめなー。俺あんず派」
「あんずかー。あんま興味ない」
「うめーよ?」
「俺はすもも担当だから」
「歪みねぇなー」
「湯がミネラルなのは歪みねぇ…駄目だな」

はいダジャレはスルーで。

こいつ本当にきれいな顔だなー。
こんなの間近で見たら、主に泣いてますだわ。うん、下半身がな。

「もう9時だぞ?帰んなくていいのか?」
「あ、本当だ。どうしよっか」
「どうしよっかって…」
「うーん。なんか帰るの面倒くさくて」
「泊まるってのか?」
「いいよ。帰る」
「ん、そうしとけ」

このタイミングで泊まると下半身が泣くからな。
ほんとよかったわ。うん。

「じゃあまた明後日。ここ来ればいい?」
「おう」
「んじゃ」
「ん。またな」

細い背中が遠ざかっていく。
あいつこんな夜に大丈夫か?俺は心配だよ全くもう。
とか言ったら「日向オカンか!」って言われそうだな。



***


「結構混んでんなー」
「すごいね。すももあめ食えるかな」
「食えんだろ」
「あ、俺秘密兵器持ってんだ」
「なにそれ」
「じゃじゃーん」

「花火?」

「正解!さっきコンビニで買ってきた」
「じゃ、やるか。後で」
「は?ナビされて花火?」
「黙れ」

花火とかすげえ懐かしいな。
いつぶりだろ。

「あ、すももあめ一個下さい!」
「ほんと好きだな」
「うん。だっておいしーじゃん」
「あ、あんずあめお願いします」
「日向も好きじゃん」
「まぁなー」

うん。うまい。

「日向、あと何買う?」
「俺もういいや」
「俺もいらない」
「祭り行ってこれしか買わない男子高校生ってどーなの」
「女子か!ってな」
「女子か!って叱って!」
「ドMか!」
「なんか、すももあめって祭りの食べ物でマイナーみたいだな」
「マジで?」
「こないだ友達にすももあめの話したらなにそれって言われた」
「あんずは?」
「あんずは知ってた」
「なんであんず知っててすもも知らねぇんだろうな」
「おかしいよな。こんなにうまいのに。う、毎日うまい」

だからダジャレはスルーで。

「どこで花火すっか」
「あの公園とか。水もあるし」
「お前バケツとかあんの?」
「確か公園の前の市役所で借りれた」
「すげぇな」

横を歩く伊月が一心不乱にすももあめを食べる。
うまそう。
赤く熟れた形のいい薄い唇に、それよりもっと赤いすももが包まれる。
口を離そうとすると、すももの周りを覆っていた水飴が唇に糸を垂らす。
なんていうか、うん。とんでもない。

「日向、俺借りてくる」
「ん。ここにいるわ」
「了解」

暗い夜の公園ははっきり言うと怖い。
マジで怖い。絶対なんか出る。

しかし本当に来れると思ってなかった。
伊月には断られるかも、と思って言ったことだったし。
毎年行ってるからって今年も行けるとは限らない。
しかも、今年は部活もあった。それで来れたってのは。
神様ありがとう。


つか遅くね?
怖いんだけど。マジ怖いんだけど。中学のとき話されたあれめっちゃ思い出したんだけど。


「日向!借りれた!」
「お、おう!よかったなー」
「俺花火ずっとやりたくて」

小学生のように目を輝かせる。
どんだけ花火好きなんだよ。

「ん」
「さんきゅ」

ライターの音が聞こえた瞬間。
シューッと音を立てて、暗い世界を照らした。

「すっげ」
「うん。すごい」

オレンジ色の光が、無邪気に笑う伊月の頬に当たっている。
言葉をなくした。

「日向、火うつすよ?」
「あぁ、さんきゅ」

伊月の手から俺に渡った光は緑色だった。

「緑だ。いいよね。花火の緑って。一番きれい」
「オレンジもいいじゃん」

オレンジの花火を持ってる伊月が一番きれいに見えるよ。
恥ずかしくて出かかったセリフを飲み込んだ。

きれいだ。本当に。
今まで見た誰よりも。

「あ、消えちゃった。日向、火」
「好きだ」
「え?」
「好きだよ。伊月が」

やわらかく日向と呼ぶその声がずっと好きだった。
いつでも隣にいたお前がずっと好きだった。
きれいで優しくて。ダジャレはつまんないけど、ダジャレを言うお前の顔は好きだった。
切なそうな顔も、胸が引きちぎれそうなくらいに。
たまらなく、きれいだった。

「ひゅ、が」
「好き。好きだ。伊月」
「日向、喋んないで。喋んないで、いいから」

ぎゅうっ、と伊月の手が背中に回る。

あったかい。
夏だし本当は人とくっつくなんて最悪だ。
だけど、もっと触れ合っていたい。
思わず泣きそうになる。


「日向…っん」

暗くてよく見えない。伊月の顔も。
だからこそできたんだと思う。

「ひゅ…が、ね…んっ」

遠くに盆踊りの曲が聞こえる。子供も騒いでいる。
でも、今俺がいるこの場所だけは違う空間だと思った。
近くに聞こえる伊月の声だけを。息だけを。

「は…日向っ、俺」
「幸せか?今」

それだけでいい。
その事実だけでいいよ。


一瞬目を泳がせたが、その後すぐに答えた。


「うん。すごい、幸せだ」


その笑顔は、暗闇の中でも今まででいちばんだとよく分かった。

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