黒バス二次創作

□他人の特権
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明日は久々の休み。
今までだったら、いつも休みは日向といた。
俺達って一緒にいなかったときってあったのかな、なんて思う。
日向と別れて2ヶ月ちょい。気持ちの整理はついたとは思っているけれど、まだ忘れたわけじゃない。寧ろ、前よりももっと執着しているかもしれない。手の暖かさとか、隣に人がいる安心感とか。

日向といると、穏やかな気持ちになれた。あぁ、あったかいなぁ。って。
日向自身も、もちろん大好きだったけど、俺は日向の周りの空気とか、日向のいる空間が大好きだったから。
あの空間に一緒にいられることが、本当に幸せだったんだなぁって心から思う。
もっとあの時間を大事にできていたら。
とめどなく溢れてくる後悔。これって、どう処理したらいいんだろう。

「日向〜」
少しばかりの間、聞かなくなっていた声。
木吉鉄平の復活は、誠凜高校バスケ部にとっての希望だった。
でもそれは、きっと俺にとっては絶望だったに違いない。あいつは本当に、すごい奴だなぁと心から思うよ。
なぁ日向。だからお前はあいつが好きなんだろう?

こんな自分知りたくなかった。こんな醜い自分が日向の隣にいられたんだよなぁ。

精一杯努力してきたつもりだったんだ。ただでさえ、男同士なんだ。俺たちは。いつ別れても不思議じゃない。
ずっと自分だけを見ててほしかった。俺はいつまでも、日向だけ見てるって決めたのに。
誇張でも何でもなく、ただ日向が好きだから。
俺はそのための計算を間違えたつもりはないよ。
誰よりも広い視野でお前を捕らえて、誰よりも計算して。実は計算が狂っていたのかな。

まぁ人間は変わる生き物だ。
わかってる。そんなに俺は子供じゃない。

だけどやっぱり、自分をかつて好きでいてくれて、自分だって大好きだった相手が自分じゃない誰かを好きになっていく瞬間を隣で見てるのは、きっと死ぬより辛いんだろうね。

でもね、もう一回アプローチする気も、計算が狂っていたかどうか確かめる気はもうないんだ。
例え日向が俺に戻ってきても、もう俺はお前を受け入れることもしないと思う。

日向はどうなんだろう。俺が日向にまたいったとして、俺のことを受け入れるつもりってあるの?一回くらい聞いてみたいけど、もう聞く必要もないか。聞けるはずないし。

あの暖かい手にはもう一生触れられないんことなんて、もうとっくにそんなの全部わかってた。

後戻りしてる。時間が経てば経つほど、日向から離れられない。

あの時、別れたくないって言ったら未来は変わったと思う?
もし俺が女だったら未来は変わったと思う?
逆に日向が女だったら未来は変わったと思う?

多分何にしろ別れてた。

それに俺は別れたくないなんて言いたくなかった。
好きな奴が言ったことは、絶対なんだ。俺にとって。

日向が別れるって言ったら、別れないっていう選択肢は俺にはなかったから。

日向に残る俺との最後の記憶がすっきりしたものであるようにって考えてた。

俺は、日向の初恋の相手だからね。
それは誰にも負けない特権だ。

その後日向が誰と付き合っても、初恋の俺には勝てないよ。


日向、覚えてないかもしれないけどさ。

コンビニで試合の後コーヒーゼリー買ってたよな。
あれは本当、びっくりした。
しかもいつも俺ん家来るとき買ってくるやつ。
あんな事しちゃ、駄目だって。

あと別れて1ヶ月後くらいに「お前クラスで仲良いの誰?」って聞いてきただろ?
俺それすごい嬉しかったんだ。
日向の関心ってまだ俺に向いてるのかなって勝手に思って。
でもその後すぐ木吉と付き合いだしたんだよな。
それは流石にキツかったかな。やっぱり。

俺は日向みたいにさっぱりしてないから。
女系家族だし、仕方ないだろ。

まだ日向を追ってる。

でも、いずれ俺も変わるよな。
きっと俺を変えてくれる人が現れる。

だから、その時まではこらえて待ってるしかないんだ。

「伊月〜部活行くぞ」
「あ、ごめんごめん」

だから駄目だって。
そんなこと言ったら、俺がさっき一人会議無理矢理終わらさせた意味なくなっちゃうだろ。

「日向くんと伊月くんってめっちゃ仲良いよね」
「あたしあの二人見てると、なんか和むわ」
「なにそれどーゆーことwwww」
「可愛いじゃーん?」
「まーね」
「もしかしたらー、付き合ってるかもよ?」
「ちょっとやめてよっ本当〜」
「でもねでもね!!高橋さんが見たんだって!!ちゅーしてるの」
「うっそ!!!!もう確定じゃん」
「だよね!!やば!!うち別にあの二人なら平気かも」
「それ超わかるわー!!」
「やばい!!すごい気になる!!」

そうなんですよ。
俺達付き合ってたんですよ。
でも今は日向は木吉と付き合ってるんですよ、なんて死んでも言えない。
ちょっと言ってみたいけど。

そうだよな。
日向と木吉は、付き合ってるんだよな。

自分の口から出た言葉で、さらに痛感した。

あの二人は、恋人なんだよな。


日向と木吉が付き合ったのを知ったきっかけは、部室でのキスを見たことだ。
でも触れただけ、って感じ。
俺が日向としていた時みたいに、濃くてあつい、ああいうのとはかけ離れていた。

何せ相手はあの木吉。
全く掴めなくて謎だけど謎ってほどの謎も持ってない謎の人物。
あれ謎って今何回言った?

そういえば今日まだダジャレ言ってないな。
何個か思い付いてたんだけど、あんまり良くなかったし、ちょっと今日の俺は真面目だから自重してみた。

俺の前を歩く2人は、ぽつりぽつりと大それたこともない内容の話をしていた。
俺はぽつりぽつりと大それたこともない内容を考えていた。

普段俺はそんなに喋る方じゃないから、きっと今の状況もそんなに不自然じゃないんだろうな。

しかしこの2人は会話が弾まなすぎる。
ちょっと俺心配になってきた。
どういう事だよ。

「なぁ今日飯何食った?」
「あー…?パン」
「そうか…」

ねぇやっぱこんな恋人同士おかしいって。
誰か助けてあげてくれ。絶望的すぎるから。


****


「あ、お先失礼します!お疲れ様でーす」
「おー、おつかれー」

「伊月ー帰るぞー」
「え、あ、うん」
「おつかれー」
「じゃ、また明日…じゃねーか。明日オフか」
「そうそう」
「じや、また来週」

別れたにも関わらず、まだ一緒に帰っている俺達はやっぱり特殊なんだろうか。

関係は前と何も変わってない。
ただ、まぁあんなことやこんなことをしなくなりましたね、ってだけで。

これっていいことなの?
どういうことなんだろう日向。

「木吉、いいの?」
「ん。別に」
「そっ、か」

え、やっぱりこの二人付き合ってないの?
どういうことなんだろう日向。

「うわ」
「どうした」
「買い物頼まれた」
「…お疲れ」
「ふざけんなよまじでー。ごめん伊月先帰ってて」
「了解。頑張れ」
「頑張るも何もねーよ…」
「はは、じゃーな」
「おー、ごめん」


駅への道を一人で歩く。

今日も、あいつらマジバ寄んのかな。
どんだけ腹減ってるんだろ…
腹減った原さん。ダメだな。全然キテない。今日絶不調。
日向のせいだからね。まじで。



「あれ?伊月くん?」

ん。俺?
顔を上げるとそこには見覚えのある顔が。

「…桐皇の?」
「せやなーワシ桐皇やねん」
「いま…」
「惜しい惜しい」
「今吉さん!!」
「ぴんぽん。よく覚えとるなー。ワシあんま顔覚えてもらえへんねん」

いや、結構強烈ですけどね。

「あれ?桐皇って結構ここから遠いですよね」
「せやな。明日オフやから出歩いてみよかなー思て」
「出歩くってw」
「伊月くんは部活終わり?めっちゃ疲れてるみたいやけど」
「え、そんな顔してますか」
「ほんますんごい顔してたで。もうこの世の終わりみたいな」

それはそれは…

「まぁ疲れてるっちゃ疲れてますよ」
「なにフラれたとか?」
「…」
「え!?嘘やん!!図星!?」
「今吉さん本当怖いです」
「まあまあ。話聞くから」
「いいですよ別に」
「遠慮せぇへんの。ワシ他人やん。話しやすいやろ」
「…まぁ」
「せや。ほな、そこのカラオケ入らへん?」
「あ、はい」

何だかよく分からない経緯で、今吉さんとカラオケまで来てしまった。

経緯は敬意。キテない。
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