黒バス二次創作

□恋人の特権
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ポケットの中で携帯が震えた。

俺は基本的に静かなのが好きだから、着信音はいじってない。
いつもマナーモードだし。
思えば、自分の着信音とか聞いたことないかも。
マナーモードでまなーぼーよ。キタコレ。

周りから少し浮き始めた俺のガラパゴスさん。
ガラケーって孤立した携帯って意味なんだっけ。
でも俺はこれ気に入ってるからあんまり変えたくない。
割と機械には強い方だから使ってればすぐ慣れるんだろうけど。


『部活終わったら部室前』

今は恋人と呼ばれる関係にある元幼馴染からのメール。
どんなに素っ気ないメールでも、嬉しいもんだなぁと思う。

『了解』

そう簡単に打って送信ボタンを押す。
あいつ、今日は何するつもりなんだろうか。

そうだ。こないだ同じように呼ばれて、部室前行ったらいきなり盛られて焦った。
流石にそれやめてほしいなぁ。


***

「ん」
「よ」

一文字の会話。
これで通じちゃうから困る。
いずれは小金井と水戸部みたいになるかも。
しかし、どうやったらあそこまでのテレパシー能力鍛えられるんだ?

「中、入るか」
「おう」

ガチャ

鍵を閉めれば、そこは2人だけの空間だ。

「ひゅうが、こないだみたいなのはやめてよ」
「わかってるって」
「俺カントクに怒られた」
「まじでか」
「すごい恐かったんだから」
「大丈夫だろ。今日は」
「本当気をつけろよ」
「俺今日は大丈夫な日」
「…よく言ってるけどそれ本当説得力ないから」
「はは」

一通りの話が終わって、静かになった。

窓は空いている。
随分と日がのびて、外はまだ明るい。
ぽかぽかとした春の風が入ってきた。
ちょっと眠くなってきたかも。

日向がメガネを外した。
キスの合図。

ゆっくりと目を閉じた。

「伊月…」

いつもとは、ほんの少し違うやさしい声。
これは、恋人の特権。

いつもと違う日向を見られるのは俺だけ。
みんなの知らない日向を見られるのは俺だけ。

そんな俺だけの特権が、どうしようもなく嬉しくて。

小さく口を開けると、日向が少し驚いたようにした。
これじゃ誘ってるみたいかな。


「ひゅ、が…あ、」

聞いたことない高い声。
俺ってこんな声出るんだ。

日向好き。好きだよ。本当に。

「はっ…はぁ」

しかし長かった…。
酸素足りない…俺死ぬかも。

あ、キスで死ねるのかな。
それちょっとかっこいいかも。
俺死ぬならそれがいいな、なんて不謹慎なことを考えてみる。


「伊月」
「ん?」
「俺やっぱ好きだわ。お前」
「日向やっぱ恥ずかしいわ」
「恥ずかしくねーよ」
「あまーい」
「懐かしいなそれ」

このキスの後の顔を見れるのも、恋人の特権。

「俺だって好きだよ」
「わかってるわ」
「馬鹿。はっ、場が馬鹿」
「本当お前が馬鹿」
「俺のがいつも順位いいよ」
「そーゆーとこが馬鹿」
「…メガネ」
「呟くんじゃねぇ!!」
「女神のメガネに目がねぇ」
「クラッチ入んぞ」
「ごめんごめん」

俺から軽いキスをして、日向の胸に体を預けた。

好き。大好き。
この気持ちが、これからもずっと続くかなぁ。
日向に言ったら、当たり前だろって言われるだろうけど、やっぱり心配なもんだ。

だって日向モテるんだもん。
クラスに日向のこと好きな子いるんだよ?ふたりも。


「伊月髪サラッサラだな」
「そう?」
「おー」
「日向はかたいよね」
「…おー」
「でも俺日向の髪好き」
「なんで」
「なんか、かわいい」
「意味わかんねえ」

こんなののどこがいいんだよ、と小さく呟く日向。

俺はね、日向ならなんでも好きなの。
わかんないかなぁ。

日向に触れられている部分がとても暖かくて幸せで。
この暖かさが離れていくのなんて想像できなくて。

きっとこれからもずっと。

なにがあっても俺は、日向から離れられないんだろうなぁ。

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