黒バス二次創作

□コーヒー苦くて飲めないんだろ
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『伊月、別れてほしいんだ』

そう切り出したのは今年の夏。

『俺も、同じ事考えてたよ、日向』





ずっと仲の良かった俺達は、中2になってすぐ付き合い出した。
男同士だし、超極秘で付き合っていた。
正直この感情が恋なのかもわからなかった。

つまりは俺の初恋は伊月なわけだ。

つかなんで振ったんだっけな。
嫌いになったわけじゃなくて、なんか…。

伊月といると、自分がすごく汚く見えるんだよな。

でも、『俺も、同じ事考えてたよ、日向』って言われたとき、何かが崩れたんだ。勝手だけど。



なのに結局、伊月にはやっぱりまだ助けてもらっていて。

その理由もわかっていて。

鷲の目なんてない俺にも、全部見えていて。

まだ俺の名前を呼ぶ声が変わらないことも。
気の遣い方が、他の奴らとは明らかに違うことも。
俺を見る視線が熱いことも。
時折、孤独な寂しそうな顔をすることも。
試合の帰りにコンビニでコーヒーゼリーを買った時、驚いた顔をさていたことも。
新作のダジャレの初披露は必ず俺にすることも。
あの時、まだ諦めきれないと言わなかったことも。


全部全部、、

わかるよ。
見えるよ。
聞こえるよ。

好きだったよ。

伊月も俺もどうせ、何も小学生の時から変わってないのにな。

伊月。
好きだったぜ。


「おい、ひゅーが?」
「おっ!!あ、ごめ」
「いいんだぜ。俺の事どうでもよくなったんなら。覚悟はで…」
「ダァホ!!何言ってんだよ。俺はお前しか見えてねぇんだから」
「ひゅ、ひゅーがぁ!!!!」


そうだ。
今はこうやって木吉ともうまくやっている。
昔の事を考えても埒が明かない。
こんなの俺じゃねーな。
さっさと忘れて、今目の前にいる愛しい相手だけを見つめていればいい。


「木吉」
「ん?」
「幼なじみって、めんどくせぇよな」
「幼なじみかぁ…俺にはいないからなぁ」
「なにお前幼なじみいねぇの」
「あぁ。そーゆーの欲しかったなぁ。なんでもわかりあえる奴っていうのか?何があっても結局一緒っていうか、家族みたいな存在っていうか?いいよな」
「俺の幼なじみはさ、」
「おう」
「馬鹿なんだよなぁ。アホっつーか。裏があるように見せかけて、裏も表もねーの。長年見てたら全部わかってよ。才能もあって、周りからも愛されてるのに、それに気付けなくて、隠れたところで、すげえ自分を過小評価してんの。何言っても、人の話は聞かねぇし頑固だし。でもうまいところで自分曲げて。他人のことばっか見て比べて。そんなだから結局自分のことなんか全然わかってなくて。なんなんだろうな。あいつ」
「ほー日向の幼なじみはそんな奴がいるのか。いい奴だな。きっと日向も、すごいそいつのこと好きなんだろう?いいことだ」
「そうか?」
「あぁ。羨ましいぜ!」
「ふーん」
「ところで、花札しないか?」
「いや、やり方知らねぇし」
「教えてやるよ!」
「トイレ行ってくるわ」
「おい!ひゅうがー!」



****


「日向。この後空いてる?」
「まぁ」
「話したい事があって」
「あぁ。つかここで話せば?」
「いや…それは」
「へー」
「あの、マジバでい?」
「おう。おごりな」
「はは、ひどいな。はっ!おごりにこりごりで怒り!!」
「伊月黙れ」



「日向コーヒーなんだ」
「おう」
「コーヒーかぁ・・・」
「お前、コーヒー苦くて飲めないんだろ」
「うん・・・コーヒーゼリーは大好きなんだけど」
「で、なに」
「俺、桐皇の今吉さんと付き合う事になった」
「はぁああ!!!?!」
「声でかい。しーっ」

しーっがちょっと可愛かったなんて思ってねーし。

「それにしてもなんで今吉さんなんだよ」
「なんか俺の事ずっと気にしてくれてたみたいで。連絡来て、それから、まぁ色々と」

あんの妖怪…伊月のことずっとそんな目で見てたんか。

「へぇ」
「で、今吉さんにプレゼント渡したいんだよね」
「なんで」
「卒業と合格祝い?ってゆーか。ほらあの人東大だから」
「すげーな。やっぱなんか次元が違うわ」
「まぁ、そうかもね」
「なに、いい感じなの」
「うーん。そーだなぁ。多分」
「多分ってなんだよ」
「でもちゃんと好きだし、好かれてると思うよ?」

ふ、と伊月が笑う。
傲慢でもなく、強欲でもなく、自慢でもなく、なんだろう。
こんなにいい笑顔をする奴ってきっと他にいないと思う。

「おめでと。いいことじゃん」
「ありがと。で、どうしようかなぁ」
「ま、お前からのならなんでも喜ぶだろ」
「そうかなぁ?」
「あぁ」
「つか何て呼ばれてんのお前」
「俊くん」
「何て呼んでんの」
「今吉さんとか翔一さん」
「ほー翔一さん、ね」
「なんだよそれ」
「なんか下の名前にさんってなんかエロくね」
「いや、わかんないわ」
「俊さん」
「うーん。わかんない」
「なんか駄目だな。俊ってのが駄目なのか?」
「順平さん」
「…なんか違うわ」
「鉄平さんとか慎二さんとか」
「なんか違うな」
「くん、かな」
「順平くん」
「おぉ。いい感じ。翔一くんって言ってみれば」
「ジャニーズかwwwはっニーズに応えるジャニーズ!」
「それ今吉さんの前でやるなよ」
「わかってるって」


もうこの笑顔は俺に向けてではないのかと思うと、少しだけ後悔した。
この笑顔を受け入れられる程の器でない俺に。


「ねえ日向」
「ん」
「やっぱり俺、コーヒーは苦くて飲めない」
「だな。俺もコーヒーゼリーは甘くて食えん」
「やっぱり、よかったのかもな」
「・・・おう」

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