銀魂二次創作(腐向け)

□ちゃりんこ
1ページ/1ページ

「土方さーん」
「あぁ?」
「早すぎですよー。俺、こんな急な坂そのスピードで登れませんって」
「の割には余裕そうじゃねぇか」
「いやいや何言ってるんですか。もう死んじまいそうでさ」


真冬の坂を自転車で駆け上がる。
マフラーがほどけて視界をちょくちょく遮るのがムカつく。
少し前を進む土方さんの背中が大きくて、それもムカつく。

学校だりいなー。眠いなー。実際学校行ったっていつも授業はサボってるし。

去年見つけたあまり使われていない北校舎の屋上。
教師も生徒も全然出入りしないから、ずっと寝ていられる。


「お前今日もサボんのか?」
「あんたには関係ないでしょ」
「あるな。一応風紀委員だ」
「あぁ。そうでしたねィ」

吐かれた白い息が空に溶けていく。
グレーの空は、全てを打ち消してしまいそうだ。

「土方さーん」
「あ?」
「さみい」
「さみいな」
「土方さん今日昼飯なに」
「弁当」
「さっすが土方さぁーん女子力たかぁーい!かわうぃいー」
「おいふざけてんのか殺すぞ」
「またまたぁ。怖いこと言わないでくだせぇよ、っと」

チャリから降りる。
んー。鍵取るの面倒くさいからいいや。


「土方さん」
「さみい」
「ちょっと。先に言わないでくだせぇよ」
「言おうとしてることわかっちまうんだよ」
「はは。そうですか」
「3歳の頃からずっとだしな」
「気持ち悪ィなぁ。思い出させないでくださいよ。土方さんと一緒の幼少期なんて。俺の黒歴史なんですから」
「なぁ黒歴史の本当の意味知ってるか?」
「なんですかィそれ」
「遥か昔、宇宙では…」
「うわあさむいさむい!誰か毛布!!!」
「おい!」
「それにしてもさみいや」
「さみいなぁ」


今年買ったグレーのダッフルコート。
去年のに比べて生地が薄い。
一年生の頃から巻いているマフラーは、やっぱり暖かい。

横の土方さんを見ると、やっぱり薄着だ。見てるだけで死にそうだ。いや、お前が死ね土方。死ぬんだ土方。

「うわ」
「どうかしやした?」
「いや、なんでもねぇ」
「うわぁラブレターじゃないですか。モテる男は違ぇや」
「おい見んな」
「なになにー?話があります放課後体育館裏に?ベタだなぁ。今時流行りやせんぜこんなの。松平って…あの松平?すげえなぁ。土方さん怒られちゃいますね」
「…」
「ちょっと。どうしたんですか土方さん」
「なんでもねぇ」

そう言ってラブレターを無造作に鞄に突っ込んだ。
土方さんはモテる。本当にモテる。信じらんないくらいモテる。幼稚園の頃からモテる。死ね土方。これは俺だけが思うことじゃない。世の中の男全員が思うことだ。土方死ね。マジ死ね。このタラシ。

「土方さん、あんた彼女作んないんですか」
「作らねぇ」
「まさかもう枯れてんですか。ひでぇや。まさかイン…」
「付き合いたいと思う女がいねぇんだよ」

土方さんの背中はやっぱり大きくて、そればかり追いかけていたら階段につまずきそうになった。






教室に入ると、やっぱりいつもと同じで騒がしく、受験前だと言うのにピリピリした感じは全然なかった。

いつも通り、土方さんの後ろの席に座る。

「おったえさーん!!!!おたえさんウホ…おったえさーん!!!!おたえさ…」

今まで聞いたことがないような音が鳴って、近藤さんが吹っ飛ばされた。

「おい」
「何ですか」
「今日うち来い」
「はぁ?」
「ちょっと渡したいもんがあんだよ」
「はぁ?あんたからもらうもんなんかないですよ。俺ぁ早く帰ってジャンプ読みたいんでさァ」
「買ってうちで読めばいいじゃねぇか」
「仕方ねぇなぁ土方さんは。どんだけ俺にかまってほしいんですか。ぼっち方め。ぼっち方ぼっち郎」
「勝手に改名してんじゃねえ」

俺と土方さんは、3歳の頃からずっと一緒だ。
家が隣で、幼稚園も一緒で、クラスも一緒で、部活も一緒で、委員会も一緒で、今だって毎日一緒に登下校している。

そりゃこんなに一緒にいたら、悔しいけど、かっこよく見えるもんだ。

本当に困る。やめてほしい。困る。本当に困る。
なんで男の俺なんかにそんな色気振り撒いてんですか。この万年発情期。死ね土方。

本当死んじまえばいいのに。
あーーーもうなんで初恋が男なんだよ。信じらんねぇ。あんたのせいで俺の人生もう色々とめちゃくちゃなんですけど。

別に付き合いたいとか、そういう訳じゃねぇ。
ただ、まぁ、ずっと一緒にいられたらいい、かもしれないっていうか。なんていうか。
諦めなければいけないと言われれば仕方ない。
俺はそうするしかないから。

俺のせいで、土方さんを迷わせたりしたくない。
だからあんたはさっさと彼女でも作ればいいんでさ。

気に食わねぇ。



「沖田さーん」
「あ?」

山崎がこっちに向かってくる。
ひそ、と声を潜めた。

「また副委員長告白されたんでしょう?」
「あーまぁな」
「本当モテますねぇ」
「何?見てたの?」
「朝女子がラブレター入れるの見てたんです。松平さんでしょう?すごいじゃないですか」
「別に。どうでもいい」
「沖田さん彼女いらないんですか?」
「なに、お前欲しいの?」
「まぁ、できるなら欲しいですね」
「ふーん」
「沖田さんだってモテるじゃないですか」
「そういうの興味ねえし」
「もったいないなぁ。このままじゃ沖田さん妖精になっちゃいますよ」
「はぁ?妖精?」

「おい山崎!」

「すいません。行ってきますね」


妖精?妖精ってなんだ?
てぃんかーべるか?


「土方さん、俺このままじゃ妖精になっちゃうらしいです」
「……お前何言ってんの?」
「ザキに言われやした」
「それ口説かれてんじゃね?」
「あんたバカじゃないですか」
「どういう流れでそうなったんだよ」
「なんか、彼女の話になって。俺が興味ねえって言ったら、このままじゃ妖精になっちゃいますよ、って」
「あー。男はな、30まで童貞守ると妖精になるんだ」
「マジですか。そいつぁ大変だ。土方さんに羽生えちゃいますね」
「誰が童貞だコラァ!!」
「え?童貞じゃないんですか?」
「童貞ですぅ!土方さんはどうせ童貞ですぅ!」
「何も隠すことじゃありやせんよ。俺だって童貞ですし」
「なにお前童貞なの」
「彼女なんかいたことないのあんたが一番知ってるでしょ」
「確かに。お前のこと好きなやつならいっぱいいたけどな」
「俺そんなにモテないですよ」
「嘘つけ」
「どこぞのマヨラーに比べりゃ、俺なんかハエですよハエ」
「……」
「そろそろ彼女でも作ればどうです?」
「付き合いたいと思う女がいねえっつったろ」
「高校在学中に絶対一人は作った方がいいですって」
「いらねえ」
「本当に妖精になっちゃいますよ」
「お前だって人のこと言えねえだろ」
「まぁそうですけど」


***




「ん?」

あれ?


「んー?」
「どうした」
「チャリがない」
「はぁ?」
「俺土方さんの横に置いたもん」
「お前がちゃんと鍵かけなかったのが悪いんだろ」
「はぁ。姉上にどやされちまう」
「で、どうすんだ」
「もういいでさ。諦めます。その代わり…」

そう言って土方さんの後ろに跨がった。



「おわっ!!!!危ねえだろうが!」
「へへ。いいでしょ」
「ほら、乗るならちゃんと乗れ」
「へい」
「ん。落ちんじゃねえぞ」
「へい」

土方さんが自転車を漕ぎ出す。重そうだ。
やっぱ二人乗りってケツ痛えんだなー、とか思う。

どこに掴まっていいかわからなくて、とりあえず荷台のところを掴んだ。

いつもの坂を下る。
チャリがシャーシャーうるせえ。東城か。

「土方さーん」
「あ?ってお前バカ!!!!!背中に何入れた!?!!」
「へへ」

バカだなぁ土方さん。
俺が何もしないわけないじゃないですか。


「土方さん二ケツヘタクソですね」
「初めてなんだよ!!!」
「ふーん。そっか。彼女もいませんもんね」
「まぁ、そうだけどよ」

土方さんが漕ぐスピードを上げる。
息が荒くなるのが分かった。

「ひーじかーたさーん」
「あ?どうした」

背中にぴっとりと顔をくっつけてみる。
なんかよくわかんねぇけどあったけえ。

つかなんか男臭ぇ。
すげえ嫌だ。


「なんだよ」
「なんでもない」

でも今この瞬間確かに、自分の胸がかすかに揺れ動いていることがわかった。

俺は今もしかしたら幸せなのかもしれない。


土方さんの背中が暖かくて、すこし泣きそうになった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ