銀魂二次創作(腐向け)

□お誕生日おめでとうしろう2014
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江戸に蔓延した謎の病根体に白詛と名前がついてから数年。
そして真選組局長近藤勲が逮捕されたのも、数年前の話。

隊士の中で数十名、白詛に感染して死んだ。局長不在、隊士の圧倒的な人数の少なさ。真選組はほぼ壊滅状態となった。

そんな状況で生き残った隊士たち。しかし、生き残ったからとて全員が同じ考えであるとは限らない。
真選組という組織を守りたい人間、局長不在の空の器など守る気がないという人間、とにかく上司についていきたいという人間、真選組がどうなろうと死んでしまいたいと自害しようとした人間、どうすることもできずただ周りに流されるだけの人間。

俺は、例え空の器でも自分達が作り上げてきたこの真選組という組織を、絶対に壊したくはなかった。


いずれ真選組は解散した。しかし局長を取り戻したいと願う人間だけで、誠組というものを結成することができた。指針ならある。

ただ、そこに総悟はいない。
ふらりと出掛けてきり、帰ることはなかった。
呑みに行くと告げ、そのまま誰も知らない間に消えて墓まで建てられた万事屋、坂田銀時のように。


空の器でも組織を守りたいと思っていた自分の気持ちは嘘だったのかもしれない。本当は、総悟を繋ぎ止めておきたかっただけなのかもしれない。総悟をそこに留め、自分の側に常に置いて、安心していたかっただけなのかもしれない。

他の連中には頼めない。この数年間、ひとりで総悟の姿を探し求めた。

ひとりの力では、足りないのだろうか。世の中はこんなに狭くなったのに。
見つからない。あの亜麻色の後ろ姿は、もう何処にもいなかった。まるで初めから存在していなかったかのように。

何年、何ヵ月、何日、何時間、何分、何秒見ていないのだろう。気が狂ったように暴れ回った。武州にいた尖ることしかできなかった若い頃のようにゴロツキ共を狩りまくった。


そのうち限界を感じた。

もうあいつはいない。きっといない。きっとあの髪も白く染めて、段々とぼやけていく視界の中で、一人で。

一番信じたくなかった。こんな事実。こんな事を考えるようになったなんて、相当追い込まれてるんだなと自嘲した。

煙草に火を点ける。これが最後の一本になる。



信じていたかった。愛する人間を失っていない事実を。








廃墟が立ち並ぶ通りに、生成色の羽織を纏ったひどく大荷物な女がいた。
裾から覗く着物は淡い紫色をしていて、その上品さは何とも言い難い。風にたなびく長い髪。後ろ姿からでもその極上っぷりはすぐに分かった。


「おい」

思わず声をかけた。きっとそれが、あの姿と似ていたからだ。

女は歩くのを止め、俯いた。どうしたかと思えば急に泣き声が聞こえてくる。

「えっ、おま、え、その、なんで、え、俺?俺が原因?」

女は何も言わなかった。
どうすりゃいいんだよこれ…


しばらくすると女は振り返った。
正確に言えば、女ではなかったけれど。

こちらを見上げるその視線は、何年前だかに失ったそれと酷似していた。
思い描いていたあの姿が、少し形を変えてすぐそこにある。


「総、悟」
「やっぱり、あんたか」

にやりと口角を上げる。ああ、ああ。これ。これだ。俺が探していた。これ。

「総悟」
「なんですか気持ち悪い」
「馬鹿!今まで何処ほっつき歩いてやがった」
「なんであんたにいちいち心配されなきゃなんないんでィ。ちゃんと辞表出したでしょうが」
「あんなん辞表じゃねえ!」
「しっかし、こんなちょっとの時間でここまでハゲ上がるなんてこりゃひでえや。俺も気を付けよ」
「ちげえわ!!!!ったくお前は何も変わってねえな」
「まぁ、こんなに見た目は変わりやしたがね」
「とりあえず俺のいるところに住め」
「はぁ?」
「今どこで寝てる」
「……野宿」
「やっぱりな。ほら文句ねえだろ。朝昼晩飯付き」
「どうせあんたと同じ部屋でしょ」
「ばれた?」
「ばれるに決まってんでしょ」

自分と山崎、あと何人かの元真選組隊士と寝泊まりしている宿まではきっとここから5分もかからないだろう。

「正確には俺野宿だったのはここ1週間くらいの話なんですけどね」
「それまでは何処いたんだ?」
「知り合いの呉服屋に下宿させてもらってて。こないだ夫婦二人で白詛になっちまって死んじまったんですが。けど着物を何十枚も貰いました。女物の。勿論これもね。綺麗でしょう。もしかしたら今は新八くんのアネゴのクローゼットよりあるかもしれねえな」

そういうことか。
笑えない冗談を交えながら話すもんだから、頭を軽く小突いた。


「白詛んなってねえか?」
「なってませんよ。身長は縮んだけど」
「確かにそうかもしれねえな」
「こないだチャイナと並んだときあんま変わんなかった」
「お前あいつに会ったのか!」
「新八くんとも会いました。二人とも立派になっちまって。変わった。ほんとに」
「そうか」
「土方さん、アネゴのことは知ってやすよね」
「会ってはいないがな。山崎から聞いた」
「あいつは何年経っても変わんねぇなぁ」
「お前も、変わらないな」
「変わってほしくないと思ってたのはあんたでしょう?」

にやりと笑ってそんなことを言うのだから。


「ったりめーだろ。良かった。本当に、良かった」
「ちょっとやめてください暑苦しい。離してくだせえ」
「しょうがねえだろ。ずっと心配してたんだから」
「心配?」
「そうだ」
「ふーん」

腑に落ちない顔をする。



「ほら、着いたぞ。上がれ」

「あらぁ珍しいじゃない。女性ですか?」
「ま、まぁな」

女将に声をかけられる。

総悟の方に目をやると、にこりと軽く微笑んでいた。こうして見ると本当に女にしか見えない。


「おい、この事他の奴らには言うなよ」
「はいはい。わかってますよ」

これでも口は堅い女だ。大丈夫だろう。




長い廊下の突き当たり、部屋に着いた。
まず総悟の大きな荷物を置かせる。この中に着物が入ってるんだろうか。ひどく重そうに見えたが軽々と持ち上げていたので鍛練は怠っていないのかと思った。

とりあえず布団でも敷こう。押し入れの扉を開ける。


「あんた。早速する気ですか」
「そうだな」
「ほんとバカじゃねえの」
「んなバカ追いかけてたのは何処のどいつだよ」

総悟を壁に縫い付けて耳元で囁く。

「え、ちょ、ちょっと…ひじか、」
「なぁ。ひとりになってから、誘われた?」
「まぁ」
「断ったの」
「そりゃ、全うな仕事なんてできないですからねぇ」
「お前…!」
「すいませんね。ふしだらで。でも、土方さんだって」
「してねえよ。あれから、してねえ」
「嘘つけ」
「本当だよ。てめー以外じゃ、勃たなかった」
「じゃあヤろうとしたんじゃないですか」
「お前なんかヤっちゃったんじゃねえかよ」
「だって、土方さんが」


土方さんが、俺のこと手離したから。


なんて事言いやがるんだこのバカは。
自分の頬をぶん殴りたくなった。


「んだよ、結局俺のせいかよ」
「あんたのせい」
「…ほら、来い」
「くっさ」
「うっせ」

総悟の手が首の後ろに回ってくる。


「ねぇ、今日何日だか知ってやす?」
「…こんなになっちまっていちいち日付なんて覚えてられっかよ」
「こどもの日ですよ」
「もう子供なんかいなくなっちまったがな」
「これだから土方さんはいけねえや」

ん?

「あんたの誕生日でしょうが」
「……そうだっけ」
「自分の誕生日も忘れちまうなんてほんと老けやしたね。いくつだよ。30代どころじゃねえなァ。一気に80くらいまで駆け上がったんじゃねえですか」
「待って俺いくつ?」
「多分32とか。やだーオッサンじゃねえですかーおえー」
「そうだよオッサンだよ」
「開き直るんですね。珍しい」
「オッサンになったからな」
「ふーん。そんなもんですかねィ」
「俺が32になったってことは、お前は22か?今」
「はい。7月で23になりやす」
「なんか、大人になっちまったなぁ。俺の中じゃ総悟はずっとガキだったから」
「でしょうね。今も真選組やってたらもしかしたらもうサボんなくなってたかもしんないですよ」
「それはねぇな」
「俺もそう思う」

お互いに笑い合う。
この瞬間をずっと求めていた。ずっと。ずっと。


「なぁ、プレゼント、ねぇの?」
「そうだ。忘れてやした」

するりと俺の腕の中から抜け、あのでかい荷物から探し始める。


「これ、白詛で死んじまうことになった刀屋のじいさんから貰ったんでさァ。俺もこの逆刃もらいましてねィ。いい刀ですよ」
「ほう。確かにこりゃいいなぁ」
「でしょう?本当、惜しい人を亡くしましたよね」
「あぁ」
「こんな風に病気が蔓延して、いよいよ死ぬってときに、ああこの人はいい人だなって気づいても遅いんですよね。呉服屋の二人も、刀屋のじいさんも、他にも沢山知り合いが死んじまった。本当に今さらなんですけど、もっともっと大切にしとかなきゃいけなかったもんが、いっぱいあるんだなって思って。すげえ後悔してるんですよ」
「俺もだ。隊士もあんなに死なせちまったし。後悔ならもうし尽くしたよ」
「さみしかった。怖かったんです。俺このまま死ぬんだと思って」
「なんだなんだ。随分素直になったな」
「年取ったから素直になったんですよ」
「はは、そうかそうか」

「近藤さんは、帰ってきますかね」
「たりめーだろ。俺達引き上げてくれたあの人だ。こんなところで離れるなんてことにはならねえよ」
「そうかもしんないですね」
「まぁ、久々の再会だ。暗い話はやめようぜ」
「ちょっと。キモすぎなんですけど」
「年取って素直になったんじゃねえのか?」
「さぁね」

「おっ、」

総悟に引っ張られて、畳に倒れ込む。




それからはただひたすらに求め続けた。互いの名前を呼ぶことによって、生きていると実感した。

力なく抱きしめる総悟が愛しくて、またひとつ小さな口づけを落とした。

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