銀魂二次創作(腐向け)

□劇場版銀魂土沖篇
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いつの間にか濡れていたはずの着物も髪も乾いていた。


小さい行灯の光でぼんやりと総悟の形が映る。

久々に見た背中は細く。
長い髪の隙間から見える肌は白く。

本当に女みたいだ。まぁそんなこと言ったら間違いなく殺されるのだが。


「土方さん」

昔と変わらない軽そうな声。

「俺、帰りますね」
「いい」
「は?」
「せっかくだ。泊まってけよ」

病院に行って、あの変な野郎に話をした後、家に総悟を連れ込んだ。

それから久しぶりに総悟に触れた。
少し痩せていたが、ほとんど昔と変わらない。
少々中がきつくなったくらいだ。

確か最後にしたのは、近藤さんが逮捕される前日だった気がする。
その時は俺もあいつもずっと仕事が立て込んでいた。
万事屋が死んだとなって、俺達も動いたけれど何も見つからず、そのまま近藤さん囚われた。ほどなく真選組は解散して、総悟は人斬りに、俺は他の隊士を引き連れて新しい組織を作った。
総悟とは、たまに報告をするためにふらりと会っていたけれど、本当にただ報告をしただけだ。

徐々に崩壊していく街を眺めながら、一人の男の面影を探していた総悟。
やっぱりそうだ。嫌な予感が的中した。
明らかに万事屋と総悟は関係を持っていたことがある。
今でこそ俺と総悟は恋人という関係になるけれど、少し前はわからない。それこそ、本当に長い間片思いだったのだ。
そういえばあいつは訳もなく異常にあいつに執着してたな。

いよいよ近藤さんの処刑が近付き、俺達にも焦りが見えてきた頃、総悟はまたふらりと現れた。

『局長は不在だが、今回だけは特別だ。真選組、再結成しやしょうよ』

衝撃的な一言だったが、皆賛成した。
あれだけ近藤さんに執着していた総悟がそう言ってるんだ。まぁ賛成するだろう。
各々が調べた結果が共有され、進んでいくべき道がもう一度同じになった。

『俺達の近藤さんを、取り返しに行くぞ』

俺の一言に総悟が頷いた。
見た目も随分変わっちまったが、大事なものは今も変わらねぇ。俺達はまだ何一つ失っちゃいなかった。







やっぱり昔から馴染んだものは安心させられる。

記憶のすべてに残っている。といっても過言ではない。
俺の頭の中なんてきっとどこを見ても総悟だらけだ。


「ほんとに、泊まっていいんですか」
「あぁ」
「俺、今日こそあんたのこと殺しやすよ」
「いいぜ」
「あんたはほんとにマゾですね。仕方ねぇ。泊まってやりまさァ」
「はいはい」

畳に投げ捨てた赤い着物をたたんでやる。
なんで赤なんだろう。
アイマスクも赤。瞳の色も赤。
これ洗ったら赤い水出てきそうだな。

「土方さんさぁ」
「あ?」
「なんで前髪上げたんですか。俺がV字V字言ってたからですか。恥ずかしくなっちゃったんですか」
「お前が髪伸ばすなら俺も髪型変えるかと思って」
「じゃあ、あんたも伸ばせばよかったじゃないですか。若い頃みたいにクソ似合わねぇポニーテールして」
「俺もう三十路なんだけど」
「そんなでしたっけ?」
「そんなだよ」
「確かに腰の振りが弱かったですね」
「マジでか」
「マジでさ。ふざけんなよ土方ホモ野郎。ちゃんとやってくだせぇ。ただでさえオッサンなんですから」
「じゃあ付いて来なきゃよかったじゃねぇか」
「……」

無言で睨み返してくる。
やっぱかわいいな。昔と変わんねぇわ。

江戸に蔓延した白い詛い。
すべてが謎で、わかっているのはナノマシンウイルスということだけ。
総悟がそれに立ち向かっている。そう思うと、やっぱり不安で仕方なかった。

姉貴を思い出してしまったからだ。
アイツの姉貴を。


「土方さん」
「あ?」
「真選組、どうするんですかね」
「さぁな」
「俺、人斬りやってていいんですかね」
「さぁな」
「もうみんな、離れやせんよね。いつまでも、やってけやすよね」
「さぁな」
「…」
「ま、少なくとも俺はお前から離れる気はねえ」
「土方さ、」
「お前は、真ん前の敵だけ斬ってりゃいいんだよ。あとの細かいところは三十路近くのオッサンにでも任せとけ」

こぼれ落ちそうな瞳が揺れる。
下を向いて前髪で顔を隠そうとする総悟を、こちらに向かせる。

「俺、だから土方さん嫌です」
「でも嫌いじゃないんだろ?」
「死ね」
「お前何だかんだで俺のこと殺せないのな」
「死ね」
「飯でも食うか」
「誰があんな犬の餌食うか」
「マヨかけねぇよ」
「いらねぇし、死ねよ土方」

はぁ、と呆れたような声。
そういえばマヨ買いに行こうと思ってたわ。思い出した。ありがとう総悟。

「いま、何月か知ってやすか」
「さぁな。10月、とか」
「そうです。秋でさァ」
「それがどうした」
「秋なのに彼岸花の一つも咲かねぇ。金木犀の匂いもしねぇ。さんまだって、芋だって」
「そりゃそうだ」
「姉上の作ってくれた大好きな栗ご飯も、もう忘れちまいそうなんです」
「…懐かしいな」
「あれ、おいしいんですよ。甘くて、いいにおいがして、あったかくて。俺、大好きだったんです。土方さんも食べたことあるでしょ?姉上の栗ご飯」
「あぁ。一回だけな」
「おいしかったでしょ」
「すげえ、うまかった」
「でしょ。きっと天国でも喜んでくれやすよ。俺達がいるのは地獄だが、届いてくれるでしょう」
「天国も地獄もかわんねぇよ」
「はは。土方さんは本当に冗談がお上手で」

無理矢理作った笑顔と、引きつった声。


「ねぇ。俺もう23なんです」
「おう」
「土方さんとか、旦那のあの時の年齢に、追い付くんです。そろそろ」
「そうだな」
「俺がいなくなったら、土方さんどうしやす」

切なそうな瞳で告げたその表情が、いつかのあいつと重なった。
置いていった。いや、置いてかれた。

心底惚れてた。こいつの姉貴に。
でも、好きだったのは。きっともうずっと前から。
こいつだったんだと思う。

「探すか」
「探しますか」
「そうだ」
「見つからなかったら」
「お前のアイマスクでも取りに行くよ」
「形見ですかィ」
「俺は、お前を殺せって言われたら殺せる」
「俺だってそうです」
「でも死ぬときは俺も一緒だ」
「ばか」
「万事屋、帰ってきたら、どうすんだ」
「さぁ?パフェでも奢ってやりますかね」
「そうか」
「土方さんあれでしょ。嫉妬してるでしょ」
「してねーよ!!!!」
「またまたぁ。いいですよ隠さなくても」
「うるせぇ」
「ねぇ土方さん」

そう言って総悟は俺の耳にひっついて言った。

「もう一回、しましょ?」

勿論そんなことを言われて我慢できるはずもなく、早急に口づけを仕掛けた。



暗闇の中でもいい。
昔には戻れなくても。
組織なんてなくてもいい。

二人のあいだにはきっと歪みなどない。
何があっても。

もう、離れねぇ。

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