家庭教師は好きな人でした。
□[19]いいですねバイトって
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嬉しい事にボクは黄瀬君のご家族に気に入られて、どうしてもと押し切られる形でこの日は黄瀬君の家に泊まった。
バイトに行く黄瀬君を、「行ってらっしゃい」と見送ったら。
「何か新婚さんみたいじゃないスか?」
と、黄瀬君が言った。
「えっ!」
「新婚らしい事、しとく?」
子供のように笑った唇が、ボクに近付いてきて。
ちゅ、と軽い音を立てて離れる。
そしたら。
「んー……物足りないっス」
そう言って黄瀬君は、ボクの頭を抱えこんで、さっきよりも深いキスをして来た。
「んっ……ちょっと、きせく、ん、」
「しばらく黙ってて。俺今栄養補給中だから」
ボクの頭にあった手はなおさら強くなって、ボクは息が出来ない苦しさより、黄瀬君から与えられる快感に酔いしれた。
ちゅ、と唇が離れた時にはボクはもう立っていられなくて、ヘナヘナとその場に座り込む。
「あれ、腰抜けちゃった?」
「黄瀬君、いじわるです」
ふてくされる振りをしながらも真っ赤な顔のボクに、黄瀬君はもう一度だけ軽くキスをして、バイトに出かけた。
「行ってきます、黒子っち」
パタン、と閉まった扉に寂しいと思う間もなく聞こえる声。
「……うわー、身内のラブシーンとか見るとさすがに生々しいわね」
壁に背中を預けて、いつから見てたのか黄瀬君のお姉さんがにやにやしてた。
「見っ……てたんですか!?」
「見てた見てた。ラブラブじゃん、もう付き合っちゃえば?」
「……で?」
「えっ、なぁに?」
「なぁに?じゃない。早く目を覚ませ」
パン!と和君に目の前で手を叩かれて、我に返る。
そうだった。ここは火神君のバイト先のマジバで、和君に話を聞いてもらってるんでした。
目の前には、ボクの話を延々聞かされてもう呆れるしかないっていう顔してる和君。
「分かってるなら、いちいちノロケ聞かせるのやめてくれる?」
じゃあ君もボクの考え読むのやめてください。
「ま、妄想ノロケなんだろうけど」
やれやれ、って肩をすくめる和君。
「違いますもん!」
「高校男子がもんとか言うな。可愛いけど。それにどうせ半分以上は妄想でしょうがテッちゃんの場合」
「……行ってらっしゃいでちゅーはほんとですもん」
「へぇ」
「生々しいとかラブラブじゃん付き合っちゃえばとか言われたのもほんとですもん」