行人ーユキビトー
□[11]深遠ーシンエンー
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それまでは何でも答えてくれていた緑間が言葉を詰まらせる様子を見て、高尾に不安が募る。
「なあ、答えて。どうして火神は、真ちゃんを知らねえんだよ」
「それは……」
「高尾クン」
近くで聞こえた声に振り向くとそれは黄瀬で、金色の綺麗な瞳に捕らえられて目が離せない。
「今はまずゆっくり眠って」
言った途端、高尾の目はトロンと閉じられ、力を失って緑間に寄りかかる。
それを受け止め緩く抱きしめて髪にキスをし、緑間は優しく高尾をベッドに寝かせてやった。
「分かったか」
「うん」
自分の手にある携帯を見てなぜ高尾を眠らせたのか緑間が察した事に気付き、何がとは聞かずに短く答えて黄瀬は高尾の寝顔を見る。
「どうやら黒子っちが高尾クンに、火神に緑間っちの事を話しておいたらって切り出したのが発端らしいっス」
高尾の瞳を隠すように、手で覆った。
「いい?緑間っち。高尾クンは今日、学校で突然泣くほどの気持ち悪さを訴えて早退したんス。緑間っちの声が聞きたくて何度も電話して、そして緑間っちはふらふらの高尾クンを町中で拾った俺からの電話で学校終わってすぐ見舞いに来たんス」
その言葉の意味するその後の対応に、緑間は小さく頷く。
「そして高尾クンは一度目覚めて、俺と緑間っちが話してるのを聞いて「偶然」俺が行人である事、緑間っちが元行人である事を知ったんスよ。いい?」
「分かったのだよ。……すまない、手間をかけさせたな」
「いいっスよ、このくらいなら朝飯前っス。あと、高尾クンは黒子っちに緑間っちの事は火神にも黙っておくようお願いしてて、黒子っちはそれを守って火神の前で緑間っちの話はしてない、って事にもなってるっス。これは、彼がしてくれた」
「……降旗か。あいつにも世話になっているな」
黄瀬はそっと手をどけると、頬に張り付いた高尾の髪をそっと払ってやる。
「これから先は、まだ高尾クンは知るべき事じゃない」
「ああ」
短く答えた後、緑間は唇を噛みしめ震える手で高尾の頬を撫でる。
「俺は宮地っちに事情話したらもう帰るけど。……高尾クンが起きるまでに、その震え止めといた方がいいっスよ」
黄瀬はポンポンと緑間の肩に手を乗せ、部屋を出ていった。
扉を閉めた、その向こう。
黄瀬の耳に聞こえてきたのは緑間の、高尾への切ないほどに苦しく絞り出すような……小さな、とても小さな謝罪の言葉だった。