家庭教師は好きな人でした。
□[38]そうだと嬉しいですけど
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ご飯を食べ終わって、千尋兄さんと少しバイトの話をしてから黄瀬君はいつもの時間にうちを出た。
「じゃあ黒子っち、土曜日バイト終わったら電話して?迎え来るから」
「えっ、そんないいですよ。黄瀬君は朝から家にいるんですよね?わざわざ迎えにきてもらうなんて、」
「俺が迎えに来たいの。ね、待ってて?」
なんて耳元で囁かれたら。
真っ赤になる顔を隠すことなくコクコクと何度も頷く俺に、お酒も入っていつもより陽気な黄瀬君は黒子っちかわいーと笑って。
「お休み」
「はい、お休みなさい。気をつけて帰ってくださいね」
「ん、ありがと」
黄瀬君は素早くちゅっとキスをしてくれて、上機嫌に手を振りながら帰っていった。
いつものように黄瀬君の姿が見えなくなるまで見送っていつものようにハイテンションで家の中に戻ると、いつもはソファでテレビを見ているお父さんが、まだ食卓にいた。
「どうしたんですか。もうすぐお父さんの好きな番組始まりますよ」
「テツヤ」
名前を呼ばれて、仕草で「座れ」と言われる。
怒ってる感じではないけど(というより怒られるような事した覚えありませんし)、またさっきのような変な雰囲気を感じて素直に椅子に座る。
「何ですか?」
「その、なんだ。泊まるのはいいが、……お前はまだ高校生なんだから、避妊はちゃんとしなさい」
「お父さん、お忘れかもしれませんがボクも男です。妊娠とかしないですから」
出来るもんならしたいですけど、とつい口に出しそうになってぐっと堪える。
「いや、お前達ならあり得ると思ってな」
「何言ってるんですか、ないですよ」
あり得てほしいのは山々だけどってのが本音だけど全く、何を言い出すのかと思えば。
もしかして黄瀬君がお泊まり許可のお願いした時に一瞬固まったのも、戸惑いを見せてたのも、それ考えてたから?
あああもしそうだとしたらいえきっとそうでしょうけど素敵な思い込みありがとうございますお父さん!
ボクの思考が何となく読めたらしい千尋兄さんに冷ややかな目で見られてますけど、そんなの知った事じゃありません!
「それに、黄瀬君がピアノ曲の課題仕上げるのが最優先すべき事ですし、行くの黄瀬君の実家でご家族もいるんですからねっ」
「そ、そうか」
まるで親に「彼とは何もしないから安心して?」って言ってる女の子みたいですけど、そんなのはもちろん建前ですよ。