家庭教師は好きな人でした。
□[20]何か企んでそうな笑顔が怖い
2ページ/5ページ
「黄瀬君が教えてくれるんですもん」
羨ましいですか、と視線で訴えてみたら。
「何か平気そうだし俺帰るな、赤司」
「もう?コーヒーくらい飲んで行きなよ、ご馳走するから」
「サンキュ、でも今からバイトだから」
無視された。
「何しに来たんでしょう、和君」
手刀受け損ですボク、と不満を漏らしながら赤司君が淹れてくれた絶品カフェオレを飲むと、赤司君がまた頭を撫でてくれる。
「いい子じゃない、高尾君。本当に黒子君が心配だったんだね」
「そうですかねぇ?」
「そうですよ。わざわざ様子見に来てくれるなんて、優しいよ。俺の初バイトの日なんて涼太、何て言ったと思う?」
はて?と首を傾げたら、また頭を撫でられた。
「「あ、今日からだったっけ。忘れてたっスごめん」自分の新しいバイト先の面接資料見ながら。その後、青峰に「てめえもしかしてまたバイト増やす気か」って説教受けてて、ザマァだったけど」
「ザマァ」。およそ赤司君が言いそうにない言葉を聞いてきょとんとすると、赤司君がおかしげに笑った。
すると何かを思いついたかのように不意に赤司君がぽんと手を打って。
「そうだ黒子君、昼から配達行ってみない?」
「配達……ボクが?」
何か企んでそうな笑顔が怖い。
「……何か企んでます?」
「ん?何も企んでないよ。行ってくれる?」
「……行きますけど」
「ん。やっぱりいい子だね、黒子君」
直球で聞いてみたら、にっこり笑顔ではぐらかされた。
「じゃあこれが店の地図と名前ね」
コーヒー豆の入った袋と、メモを渡されて送り出される。
お店の名前に聞き覚えがあるのは気のせいでしょうか。
「うちの店名言えば誰か出てくるだろうから」
「はい、行ってきます」
普段人と接するのは、得意か苦手かと聞かれれば得意な方。
だけどお仕事なんだって思ったら、何だか緊張してきた。
でも。
『黒子っち社交性あるし、笑顔可愛いから問題ない問題ない』
バイトの話をしたあの日に黄瀬君に言われた言葉を思い出すと、緊張がなくなってきた。
「よしっ」
着いたお店の前で深呼吸をしてから、店に入る。
チリリンと、来客を知らせる可愛い鈴の音が聞こえた。
「あの、××コーヒー店ですが、コーヒー豆お持ちしました」
平静を装ってみたけれど何か急に恥ずかしくなってきてうつ向くと、誰かが近付いてくる気配がした。