短編
□【企画】紫苑×雅哉
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青年が、暗い夜道を歩いている。
夜10時を過ぎ、青年は誰も通らない道を早足で歩きながら、自分の自宅へと黙々と歩く。
真っ黒な髪に、肌寒いこの季節に薄手のコートを羽織って気むずかしい顔ではあるが、よく見ると整った顔をしている。――いわゆる世間で言うイケメンという部類に入るだろう。
(今日も、遅くまで残業か……疲れたな)
青年はそんなことを考えているが、残業しているのは青年だけではない。むしろ青年の残業は早く終わった方である。
自慢ではないが、青年は仕事での実力は上司に有無を言わせないモノで、出来すぎているからこそ、いろいろな仕事を任され、この時間まで残業をしてるのである。
「はぁ……あいつ、もう来てるかな……来てるか、あいつだし……」
素っ気なく、面倒くさそうに言う青年だが、顔はどこか嬉しそうである。スマホの画面を開いてメールをチェックすると、その顔が口角を上げ緩んだのは気のせいではあるまい。
(おっと……家までは《あの俺》は出したらいけないな)
(帰るまでが《この俺》だからな)
なにせ、どこの誰が見てるか分からないんだから、と青年は呟いて、あるマンションを見上げる。
高級マンションの一室を青年は見つめると、電気が煌々と付いていることを満足そうに見ると、そのマンションへと足を運んだ。
❤ ❤ ❤
「ただいま」
電気の付いた玄関で靴を脱いで廊下を歩き出すと、ばたばたと騒がしい足音が聞こえてくる。
唐突に「紫苑さん!」と声を上げ青年の前から抱きしめられる。もうそれに慣れた青年は冷静になりながら抱きついてきた人物を抱きしめ返す。
くせっ毛のある、ふわふわした茶色の髪をなでてやると、気持ちよさそうに茶色の垂れ目が細くなりほころぶ。童顔の少年はもっとしてと言うように自分からすり寄せる。
「おかえりなさい、紫苑さん」
少年が嬉しそうな顔で青年――紫苑に微笑むと紫苑も頬が緩んだ。しかしそれも一瞬のことで、すぐに無愛想な表情へと戻る。
「雅哉。悪い、遅くなった」
「紫苑さん、もうここは仕事場じゃないよ? 眼鏡外して、仕事モード切ったら?」
「俺がいるのに仕事モードなんて、やだー」とすりすりと少年――雅哉は、一層抱きつくと不機嫌そうに、それでいて幸せそうに顔を緩める。
「……そうだな!」