短編

□愛することが分からないというならば、
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 10年の月日がたったとき、やっと蒼の母親らしき人物を見つけた。蒼の母親は娼婦だった。蒼は死んだとされ、母はちやほやされお金には困っていないようだった。お情け涙という奴だった。

「……おお、黒髪に青い瞳って珍しいからあの人だろう」

「健気だよなぁ。旦那に逃げられて、息子は崖から落ちて死んじまって。旦那が残した借金を払うために水商売をしてると来た」

「ああいう健気な子は、ちゃんと幸せになるべきなんだよな」

「それにしても……お兄さん綺麗だね、遊ばないのかい?」

「……失礼する」

 女の住所を聞き、俺は隣人の方に話を聞くことにする。

「――あら? なんのお話をしてるんです?」

「……ああ、この人が、あんたのことを探してるってさ」

「あら……? 新しいお客さんですか? お兄さん、綺麗な顔ですね。安くしときますよ……?」

 するり、と俺の身体にすり寄ってくるこの女は、蒼の母親らしき人物、だった。

 確かに顔立ちはそっくりだったが、俺はこいつが蒼の母親であって欲しくないと思った。

 ――蒼が、あまりにも可哀想だった。

 つんと鼻につく香水のにおいに嫌気がさす。においは嫌いだ。

 ……蒼のにおいだけは、好きだなと思いながら、女を押しのける。

「……明日、あんなの家に行ってもいいか? 聞きたいことがある」

「あら、なんでしょうか? いまじゃだめです?」

「……ダメだ」

「分かりました……明日の、夜ですね」

 俺はその場所をあとにして、次は女の家の方へと向かう。

 近隣の人にも聞いてみたかった。

 偏見かもしれないが、あの女が蒼健気なのか納得がいかなかったのだ。

「ああ、あの女かい。水商売して金稼いでる女だろう?」

 近隣の人にはほぼ不評だった。こうも意見が割れるとどちらを信じていいのか分からない。

「健気だと聞いたのだが」

「健気? バカ言うんじゃないよ、町じゃあそれで通ってるみたいだけどね、あの女は悪魔だよ」

「……悪魔?」

「実の息子を愛するどころか虐待ばっかして、旦那はあの女の作った借金でどこかにつれてかれたのをみたよ」

 ……虐待……?

 その言葉には、少なからず心当たりがあった。

 雷が鳴ると、大雨になると蒼はいつになく怯えて、良い子にするから外に出さないで、と必死に訴えていた。それと、関係あるのだろうか?




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