短編
□どうしてこんな気持ちにならないといけないんだ※
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「……ごめ、ユキト……」
――風邪を引いた。油断してた。昨日からなんか調子が悪かったけれどまさか熱が出て咳が止まらなくなるとは思ってもみなかった。熱にうなされながらユキトにそう告げる僕に、ユキトは「大丈夫」と無愛想に答える。無愛想で無表情なユキトだけど、僕のことを心配していることぐらい分かってた。それくらい、もう一緒にいるから。
ユキトに出会って、名前をもらって……記憶の無い僕をここまで育ててくれて、早十年。ユキトには本当に感謝してもしきれないし、幸せになって欲しいって思ってる。
ユキトに、早く素敵な人が見つかりますように、願って。
――そんな日が来たら、僕はユキトとはお別れ。分かってるよ。だからね、ユキト……それまでは、どうか一緒にいさせて欲しいんだ。精一杯恩返しをするから。
「……んなこと、しなくて良いんだよ」
「……ぅ……? けほ、なに……?」
「……別に。もう寝ろ」
「……うん……?」
血は飲まなくて良いの? と掠れた声でユキトに言うと、「病人の血を吸うほど俺も鬼じゃない」と言われた。
……いつもは、お構いなしに血を吸うくせに……と、思いながら僕の意識は遠ざかった。
ガチャ、とドアの開く音がして、目が覚める。昼間ずっと寝ていたせいか、妙に目が冴えて寝付けなかった。カーテンを開けるとユキトが家を出て行く姿が見えた。
僕の血を吸えないから、どこか行くのかな……なんか、悪いことしちゃった……。
「どっか出かけるのかな……けほ」
そう思っていた僕は、その日はやっぱり身体のだるさが抜けなかったからすぐベッドへは入り目を閉じる。すぐには眠れなかったから、本当に目を閉じて横になるだけだった。
「……のど、乾いた……けほ……水……」
そう言いながら、のろのろとベッドから起き上がる。ふらふらする視界に壁に手をつきながら水のあるキッチンの方へと歩き出す。キッチンまで到着するのに時間がかかったけど、ようやく水が飲めて喉が潤う。
さて、戻ろうとしたときだった。
また手をついてのろのろふらふらと寝室の方へ向かっていると、ユキトがリビングにいた。
「ユキト……どっか行ってたの……?」
ユキトは、僕がここにいるのに驚きながら、難しい顔をして「ああ」とだけ短く答える。
どこに行ってたの、なんていうタイミングがなくなって、ユキトは難しい顔のまま僕の横を通り過ぎる。
……あれ……。
――すれ違いざまにつんと鼻につくにおいが、ユキトからした。
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