短編
□俺が知らないキミの素顔(ヤンデレ×従順な子羊わんこ)
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「春ー!はよっす!」
「あ、おはよー」
「まぁた携帯ばっかいじりやがって、視力悪くなんぞ」
「大丈夫だよ長時間いじってるわけじゃないし」
「俺は忠告したからなぁ〜?」
ゲラゲラと笑いながら航太は俺の肩に手を回して歩き出す。
航太よりも小柄な俺は、少し速いペースに、こけそうになってしまう。
「ちょ、やめてよ」
「……ねぇ」
――少しだけ、少しだけ……小さな声が聞こえた。振り向くと艶のある黒髪、まっすぐとした瞳に、高い身長の……クラスの、確か
「……上野、夏樹くんだよね?」
「……そう」
「なに、かな?」
上野夏樹くん。無口な彼と会話するのは、これが初めてだった。無口な彼がしゃべるときと言えば、授業中当てられたときのみ。テストも決まってトップだし、教科書を開いていることを見たことはなかった。たぶん、まれにいる秀才というものなんだろうな、なんて思いながら。そんな彼の整った顔つき、秀才に、クールな所は、女子に人気だった。
「……一応忠告しとく。……今日は寄り道しないで帰ることを勧める。用事がある場合は、一人で帰らないこと。……それだけ」
そう言うと、上野くんは、すたすたと教室の方平気、自分の席に座ると寝る体勢を取っていた。すぐに女子が集まるも、無視しているようだった。
「……なんなんだろうね?」
「……春ー今日一緒帰るか?」
「え? なに? 信じるの?」
「……お前、知らねえの? 上野、学校の情報通だぞ。あんな事お前に言うって事は、それなりにヤバいことが起こるかもしれないって事じゃん」
「……うーん、でも、俺放課後先生に呼ばれてるんだよ。何時に終わるか分かんねーし、大丈夫だって」
「待ってるぞ?」
「良いよ、それに、航太、妹の迎えあるんでしょう? 妹が可哀想じゃない」
「……じゃあ、気をつけなよ?」
「わかってるよ」
このとき、俺は分かってなかったんだ。上野くんの情報を、信用していなかったこと……自分が、以前航太にお前男寄せ付けるフェロモンでてんじゃねえの、と言われたことを、忘れていたことを。自分はそんなんじゃないと……心の中で思っていたことを。
……上野くんが、俺の方を最後ちらり、と見ていたことを。
……そして、クラスメイトの何人かが、にやにやと俺の方を見ていたことを。
分かっていても、違う、と自分で言い訳して分からない知らないフリをしていたんだ。
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