短編

□ぼくと、きみと。(全三回)中編
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 いつからだろうか、と灯悟は物思いに耽ってた。

(――いつから――……桜良のことが、気になりだしたのだろうか)

 最初は、何となく同情からだった。

 周りと馴染もうとしない、儚い感じが見ていて痛々しくて、声をかけ続けた。

 無視されて、自分は桜良に嫌われているのだろうか、と灯悟自身傷ついたことだってある。

 ――でもそれは勘違いだと言うことが分かったのは、入学して一ヶ月後のこと。

 相も変わらず図書室で桜良に話しかけていた灯悟に、少し嬉しそうな顔を桜良が見せたのだ。――たとえ見間違いだったとしても、他の人には変わらなく見えたとしても、はっきりと灯悟にはそう見えたのだ。

 それから、いつの間にか桜良の隣にいることが居心地が良くて、楽しかった。

 些細な変化を見分けることの出来る自分に、少し優越感に浸っていたことも確か。

 そして桜良のことが、≪友人≫としてではなく気になりだしたのは、つい一週間前。

 桜良の笑顔を見たときだった。

 当の本人は気づいていなかったようだが、明らかに笑っていたのだ。些細な表情の変化ではなく、はっきり目に見える形で、桜良は微笑んでいたのだ。

 ――そのときからだった。桜良を気になりだしたのは。

(……いや、だって、おかしい、違う違う違う! ほら、だってさ思春期にはよくあることだって!)

(なんて言うか、恋愛と友情とをごちゃごちゃにしちゃうってヤツ!)

(俺と桜良は、友達!! それ以上も、それ以下の感情も、無い!)

 だいたい、桜良も灯悟もおんなじ男なのだ。恋愛感情が芽生えるはずがない。

 それにこんなおかしなことを考えていることがバレたら、せっかく仲良くなった桜良に嫌われる。

「へへ、当たりだー。桜良照れてる。可愛い」

 そう言った灯悟に、桜良は居心地悪そうに頬を染めるから、灯悟は「え」と心の中で困惑する。

(あれ? なんで? そこはちょっと気持ち悪いって言うところじゃねえの??)

 もちろん、可愛いと言った言葉は灯悟の本心である。ただ、こんなにも桜良が頬を染めながら、何とも言えない表情をするのに、灯悟自身驚いたのだ。

「……男の僕に、≪可愛い≫とか言わないでくれる?」

「そういうのは女子限定の言葉にしたら?」と、照れている表情を隠そうと必死にしている桜良に、思わず笑ってしまう。

「えー? 俺は可愛かったら可愛いって言うけど?」

 からかうように言った灯悟に、桜良はさらに居心地が悪そうな顔で口ごもったかと思うと、
「……っだからそれを止めろって……っ!」と灯悟を睨み付けた。

「――可愛いよ。桜良は、可愛い」

 自然とその言葉が出ていて、灯悟はさらに驚く。

(……あれ、なんだろう、本当桜良が可愛い)


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