短編

□ぼくと、きみと。(前編)
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  これは、眠り姫に甘いキスを。のアナザーストーリー――。

  本編には直接登場しない、二人の少年の、淡く、甘い恋の物語だ。

  ああ、王子と姫の恋の物語が読みたかった?

  ――残念。それではまたの機会に。

  今日はひとたびの、いつになく新鮮な、二人の恋の行方をご覧ください――……。








 少年は、一人静かに本を読んでいた――。

 古い、誰もいない図書館の一室。夕焼け空がやけに綺麗で、窓際で読書をしている少年の姿のコントラストが、妙に合っている。

 ≪病的≫と言うより、血色のいい白い肌は、女子からも羨ましがられるほどで、細い手足は、少年をはかないイメージへと導かせる。目にかかるくらい長い前髪は、細くさらさらとしていて、不潔感はない。むしろ清潔感あふれるくらい、手入れされているような綺麗な黒髪だ。そして男子にしては大きく、ぱっちりとした汚れのない瞳は、見ている人を惹きつけるような存在感。女子の誰もが羨ましがるほどの外見だ。

 ……しかし、その表情は無いに等しく、いまいちなにを考えているのかが、読めない。

 そんな欠点の一つで、少年のイメージは≪根暗≫。クラスメイトとしても、あまり近寄りたくないタイプの一人で、少年は入学してからというもの、友達と呼べる人はあまりいない。

 ……まぁ、当の本人はあまり気にしていないのだけれども。

「……」

 静寂の図書室に、ぺらっと本のページをめくる音が響く。

(……今日も、平和だな)

 そんなのんきなことを思いながら、少年は読書を続ける。

 そんなとき、図書室の向こうからばたばたとやかましい足音が聞こえ――その足音はだんだんと近づいてきて――少年は、またか、と嫌な顔をする。

(また、か)

(毎日、ご苦労なことだよね)

「――桜良!」

 がら、っとドアが勢いよく開き、満面の笑みで少年を見つめる少年が一人。

 その少年は、どうやらこの読書をしている少年に用があるようだ。

 その少年に、読書を妨げられた少年は、無表情の顔を少しゆがめる。

「……」

「……まーたここで読書かよ! そんなの毎日やってて飽きねーの? たまにはクラスのみんなと遊ぼうぜ!」

 バシバシッ! と勢いよく少年の肩を叩き、少年は痛みで少し顔をゆがめる。

 普通の人は、分からないくらいほんの少しの表情の変化。それに気づいた少年は「ごめんごめん」と申し訳ないように手を合わせた。



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